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今回のお話は、本当は拍手お礼にしようと画策していたものですが、ダラダラ長くなったので断念。
悠理一人称ですが、これだけでは状況が全くわからん(爆)申し訳ありません。
拍手レス等は本日中に改めて行いますので、申し訳ありませんが、本日はこれにて……。
夜の黒い川面を、滑るように進むに連れて。
ちゃぷり、ちゃぷりと水音が響く。
『屋形船』
「乗り心地を、皆で確かめるだよ」
「夕涼みには最適ですものね」
唐突な、でも別段驚きも感じない、両親の提案。
反対するだけ無駄な事だし、用事があるわけでもないので、あたいは頷いた。
そして夕方、家の車で船着場へ。
あたいは白地に流水と青の撫子が散った浴衣に、黄色の半帯と、青の帯締め。
母ちゃんは一見着物と見紛うような黒い格子に花柄の浴衣に、朱色の帯と鼈甲の帯締め。
髪にも鼈甲の透かし彫りの簪を挿し、姿勢良い立ち姿は、娘の自分から見ても物凄く綺麗で。
ましてや母ちゃんに今もベタ惚れしてる父ちゃんなら、言うまでもなく鼻の下伸びっ放し。
「いやぁ、悠理も随分見違えただな。母ちゃんの次ぐらいに綺麗だがや」
……まあ『母ちゃん命』の看板を背負って歩く父ならば、これが娘への最上級の賛辞だろう。
そんな父ちゃんは、紺色のアケミとサユリが無数に散った白地の浴衣を着て、ご満悦だけど。
母ちゃんが一瞬眉を潜めてたってのは、家庭の平穏のために秘密にしておいた。
船着場の一角に停泊していたのは、明らかに我が家の所有だと一目瞭然の、朱塗りの船。
ご丁寧にも吊るされた提灯にまで家紋が施され、疑いようもありゃしない。
この分では、内装も言うに及ばずであろう。
(……ま、どうせあたいは飯食いに来ただけだし……)
自分に言い聞かせて乗船しようと踏み出すと、何故かその場に、学校で毎日目にしている男。
白地に黒の縞の浴衣に矢羽根模様の黒地の帯が、制服並みにマッチしていて不思議。
「遅くなりました」
「おお、待ってただよ、清四郎君」
「あらまあ、やっぱり浴衣も良くお似合いねえ、清四郎ちゃん」
「恐れ入ります」
余所行きスマイルを綺麗な顔に貼り付けた清四郎が、軽く両親に頭を下げた。
船の上での夕飯は、気がつけば、酒盛りに突入。
万年恋愛中である両親の睦まじさは、正直肴にするのも鬱陶しくて。
屋上デッキへと避難すると、先客。
「清四郎……」
「おや、悠理も酔い覚ましですか?」
清四郎の隣へ立って、川面を見つめる。
既に日はとっぷり暮れて、街の明かりが夜空を壊すかのように煌いて。
船の明かりと町の明かりを映し出している川面だけが、吸い込まれそうな程静かな黒。
ちゃぷり、ちゃぷり。
船がゆるゆると滑る度、音が届く。
「案外落ち着くんだな、こういうのって」
「そうですね。悠理は初めてですか?」
「うん。清四郎は?」
「僕もですよ。いきなり五代さんから電話があった時は、何があったのかと思いました」
清四郎が大袈裟に肩を竦めるのが、何となく気に入らない。
視線を逸らして、文句のひとつもつけてみる。
「イヤなら断れよな」
「僕も命が惜しいですからね。お2人の機嫌を損ねて、敵に回す度胸はありませんな」
「けっ、どのツラがそんな殊勝な台詞吐くんだか」
あたいは奴に背を向けて、反対側のデッキへ立った。
途端に全身を包む、水の上ならではの冷気を多少は含んだ空気。
潤いを含んだそれが心地良くて、ほうっと息を吐く。
数秒後、背中が力強い温もりに包まれた。
「!?」
我知らず、びくりと身を震わせた。
相手の気配も何もかも、知り尽くしているはずなのに、経験したことのない距離。
自分を背後から抱き締める男の吐息が、髪を擽る。
右腕をあたいの肩に回し、左腕でデッキの手すりごと手を掴まれて。
最早、身動き不可能。
「……何、だよ」
声が震える。
清四郎は何も答えてくれなくて、ただ、腕の力が増して。
奴の吐息だけでなく、心臓の鼓動までが、背中越しに伝わってきそうで。
狂ったように早鐘を打つ心臓の音が、清四郎に伝わってしまいそうで。
夜気に晒されているはずなのに、全身がやけに熱を持った。
どうすれば、いいんだろう。
こんな事、今まで一度だってされた事なかったのに。
「せ、清四郎……?」
「……何ですか、悠理」
恐る恐る発した声に返してくれた、清四郎の声にすら、どきりとした。
普段よりも低めの、穏やかなはずなのに、どこか凄みを帯びた声。
「……はなして……」
口から何とか発した自分の声は、掠れていた。
「───いやです」
熱い吐息と共に、清四郎の拒絶が、耳のすぐ後ろへ落とされて。
ますます奴の腕に力が篭り、あたいは更にきつく拘束された。
手すりを掴んでいた筈の左手は、既に奴のそれに包み込まれ、宙を彷徨って。
「………!」
強引に引き寄せられた事に気付いたときには、視界が清四郎の浴衣の縞で埋め尽くされた。
力任せの抱擁は息苦しくて、身を捩って離れようとするけれど、当然ながら力でこいつには勝てない。
無駄な抵抗を諦め、あたいは清四郎の顔を見上げる。
そして、激しく後悔。
「───悠、理」
「……せ、い…………っ」
あたいの視界に飛び込んだのは、抗えない程の強い意思を宿した、清四郎の瞳。
漆黒の瞳が映し出すのは、羞恥で真っ赤に頬を染め、潤んだ瞳の自分。
最後まで相手の名前を呼ぶ事すらできないままに、あたいの唇は清四郎のそれに塞がれて。
頭の中が、真っ白になった。
*
夜の川面を、滑るように船が進む。
漆黒の闇の中、隠された逢瀬。
見ていたものは、夜空と水面だけ。
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。