[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ちょっと「郷愁めく」を上手に表現できませんで、「懐かしむ」ぐらいになってしまいました(汗)
6 郷愁めく土曜日
懐かしむのは、君たちも?
*
自宅パソコンに向かい、来週以降の予定をチェックしていた僕の足元へ、温かな圧迫感。
しかも時間差。
机の下を覗いてみて、正体を知る。
「……おや、どうしました?」
そこには妻の愛猫多満自慢と、富久娘の姿があった。
2匹とも大きな瞳でじいっとこちらを見上げつつ、時に体を僕の足へ擦り付けている。
飽きもせずに同じ動作を幾度か繰り返した後、彼らは僕の足の匂いをくんくんと嗅いで。
再び擦り寄る動作を始めた。
ふとパソコンのモニター内の時計表示に目を向け、やっと彼らの行動の理由を察した。
「ああ、そういえばこの時間は悠理と庭の散歩でしたねえ、お前たちは」
「「うにゃー」」
我が意を得たり、と言わんばかりの2匹の合唱に、僕はパソコンの電源を落として立ち上がる。
「……悠理が恋しいんですね?僕も一緒ですよ」
「「なー」」
「彼女を恋しがる者同士、たまには一緒に過ごしますか。今日は僕のお供で我慢して下さいよ」
2匹の前に屈んで頭を撫でてやると、彼らは再び声を揃えて鳴きながら、僕の手に頭を押し付けた。
広大な敷地の中、義父母の超個性的な趣味が激しく主張し合う庭を、猫達を従えゆったり歩む。
勿論犬とは違うのだし、何よりここは家の敷地内だから、猫達には散歩用のリードも不要。
多満自慢は時折目に留まった虫を追い、富久娘は周囲の花の香りを確かめながら、庭を跳ねて。
穏やかな休日が、ゆったりと流れる感覚。
思えば初めてこの家に足を踏み入れた中学時代、彼らは既にここで妻と共にいたのだ。
「こっちがタマでこっちがフクってんだ、どっちもあたいが育てたんだぞ!」と。
初めて剣菱邸を訪ねたとき、愛猫達を紹介してくれた当時の妻が、胸を張っていたことを思い出す。
出来うる限り毎日の散歩や運動をして、餌やトイレの始末まできちんとこなしていたようで。
友達になってから初めて知った、妻の意外な一面に、密かに驚いていたものだったが。
時を経て妻も成長し、猫達も年を重ね、人で表せば既に高齢の域に達してはいるけれど。
年齢の割には2匹とも大層丈夫で、その毛艶も輝くばかりなのは、妻の愛情の賜物だろう。
何せ彼女は、身近にあるもの全てに対し、惜しみなく愛情を注ぐ事のできる人だから。
仕事に追われ、しかも妻が傍にいないという寂しいひと時。
その愛猫達が楽しげに庭で跳ね回る姿を眺めていると、思いがけず安らぐ心を自覚した。
「タマ、フク、そろそろ部屋に戻りましょう。お前たちもおやつの時間でしょう?」
僕が腕時計を確かめながら声をかけると、2匹は高く鳴いて、足元へと寄って来た。
それからまた僕の両足に何度も擦り寄って、甘えたような声を上げる。
(……何だか、今の僕を見るような気持ちになりますねえ)
きっと自分も傍から見れば、こうして妻を恋しがる猫のように見えているのだろうか、と。
柄にもない事を考えて、自然と口元が緩んだ。
そしてふと思いつき、ポケットに持ち歩いていた携帯を取り出し、カメラを起動して。
「タマ、フク、いい顔をして下さいよ。悠理に送る写真ですからね」と声をかけてみると。
彼らは心得たとばかりに寄り添って、大層いい表情を示した事実に目を見張り、笑みが浮かぶ。
2、3枚程撮影してから、画像データの転送処理をして、僕は携帯をポケットに仕舞い込んだ。
(きっと悠理も、喜びますね)
「ありがとう。さあ、行きましょうか」
「「なー」」
僕は先程と同じように猫達を従え、自室までゆったりと歩いていった。
*
貴女が愛でる者を慈しむと、やはり貴女を思い出す。
誰より愛しい貴女の事を。
きっとそれは、貴女も同じ。
僕等には、お互いの存在こそが、懐かしく愛しい場所だから。
《配布元:空飛ぶ青い何か。 様》
04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。