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やれやれ…。漸く『可愛い馬鹿夫婦』が完結できましたね。
このシリーズが思いがけず好評だったので、驚きです。皆様ご感想ありがとうございます。
拍手レス等は明日・・・と申しますか、後程改めてさせて下さい。申し訳ありません。
7 心地好い日曜日
待ち焦がれた温もりを、受け止めて。
*
空港までの渋滞など、幾度となく経験しているというのに。
今日は無性に苛立つ自分を持て余し、苦笑い。
「名輪、あとどのくらい時間がかかりますかね?」
「左様でございますね……この程度の混み具合ならば、20分程度でございましょうか」
「わかりました、ありがとう」
ふうっと息を吐き、背凭れに体重を預けた僕に、運転手の名輪が付け足す。
「ご安心下さいませ、清四郎様。お嬢様はお先に到着されても、ロビーでお待ちになっている筈です」
「え?」
「『清四郎様とお迎えに上がります』とお伝えしましたら、そのようなご返答がありましたので」
「………そうですか」
「はい」
静かに返され、こちらの方が羞恥を覚えてしまう。
学生時代から彼女の送迎でよく顔を合わせている、剣菱家のお抱え運転手。
長い付き合いで相手もこちらを良く見知ってくれている分、彼の前では気を抜いてしまいがち。
変に虚勢を張る必要もないだろうか、と僕は、無意識に入っていた肩の力を抜いて。
目を閉じて、僕を待ってくれているであろう人の面影を、記憶の中に追いかけた。
名輪の予測どおりに車は空港玄関へ到着し、僕は慌しく扉を閉めると到着ロビーへ向かう。
海外からの客人を迎える際なら、もっと周囲を気遣って、歩みもゆったりしている筈なのに。
気が逸ってしまい、人の間を縫うように目的の場所を目指して小走りに進んだ。
やがて。
「清四郎、ここ!」
先に僕を発見したらしい、快活なアルトの響きが耳へと届き。
僕の視界には、満面の笑顔で手を振る愛妻のすっきりした立ち姿が飛び込んで来た。
「悠理、もう着いていたんですね。待たせてしまいましたか?」
「ん、全然だいじょぶ。あたいの方も、さっき飛行機着いたばっかしだから」
そう答えて笑う妻は、バッグひとつで相変わらずの、軽装極まりない渡航姿。
「荷物はないんですか?」
「うん。だって着替えも全部あっちで用意してあったし、物買う必要もなかったもん」
あっけらかんと答えて笑う姿は、傍目からはどう見ても海外旅行帰りとは思われないだろう。
たまの旅行で、これでもかと土産やら免税品やらを買い漁るそこらの女性とは、やはり違うのだ。
「では、行きましょうか。名輪が待ってます」
「ん」
僕の言葉に素直に頷き、妻はにっこりと笑みを浮かべたまま、僕の腕に自分のそれを絡ませて来る。
「えへへ、久し振りだー」
心底嬉しそうに呟く様は、かつて学生の頃に見せた無邪気な少女ではなく、大人の女性の面影。
自分の心が温かくなるのを感じつつ、僕は妻にそうっと囁いた。
「お帰り……悠理」
隣を歩く妻の頬が、微かに紅く染まってからこちらを見上げ、心底嬉しそうに。
「……ただいま。清四郎」
艶やかな薔薇色のルージュを乗せた唇が、囁き返した。
*
家に帰ったら、真っ先に。
何より愛しい温もりを、この手にしっかり抱き締めよう。
明日からまた、頑張るために。
配布元:空飛ぶ青い何か。様
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。