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暇人が開設した二次創作保管庫です。「二次創作」をご存知ない・嫌悪を覚える方は閲覧をご遠慮ください。漫画『有閑』の会長と運動部部長を推してます。
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タイトルの意味は「共犯者」です。
中身はありがちな、求婚ネタでございます。
甘いのかそうじゃないのか、かなり微妙な清×悠となりました。


 甘酸っぱい恋じゃなく。
 甘ったるい愛じゃなく。

 

 『Accomplice』

 

父ちゃんが倒れた。

勿論、秘密裏のうちにやれ入院の措置だ、会長不在時の代表権をどうするだ、なんてのを決定して。
マスコミがすっぱ抜く前に、先手を打って発表がなされたんだけど。
それでもなお『磐石の体制にヒビ』だの『財閥の終焉か』だの、余計な混乱が大発生。
色んな取材を避けるため、学校は休んで、自宅で課題をするのが日常と化した。
部室へ顔を出す事も、みんなと遊ぶ事もできなくなって、寂しいと思ったけど。
もっともっと大変な母ちゃんとか、兄ちゃんとかに比べれば、それでもマシだった。
そんなあたいの状況を察して、毎日メールを寄越す人間は、倶楽部を代表してひとりだけ。
毎日寝る前に携帯を開くと、思わず笑いが浮かんでしまう。
「やっぱ、今日も清四郎からか……」
清四郎の寄越すメールは、あまり長い文面ではなく、堅苦しさが漂うけれど、いつも最後には。
『あまり無理をしないように。何かあれば、必ず助ける。』
あいつらしい言葉の励ましが、無性に嬉しい。
『あたいは元気。みんなにも、よろしくな!』
いつもの通り、短めに返信してから、携帯を抱き締めて。
「ありがとな……」
皮肉屋の癖に、たまに見せる無性に優しい笑顔を思い出して、少しだけ泣いてみた。


    *


漸くマスコミの騒動も落ち着いて、父ちゃんの容態も安定してきた頃。
予想外な問題が、いきなり降って湧いてきた。
「縁談っ!?」
苦りきった兄ちゃんからもたらされた知らせは、あまりにも突飛なもので、あたいは絶句。
兄ちゃんも、額を抑えながら話していた。
「確かにお前は、適齢期に近付いてるからね……。正直、僕も意外だったよ」
「で、でも何でそんな急に?あたい別に、そんなに何度も人前出たりしてないのに」
この所母ちゃんや兄ちゃんのスケジュールが多忙を極め、限界が生じたために。
役者不足ながらも、あたいまでがレセプション等に借り出されたのは、ごく最近。
でも、その数回のパーティーであたいを見初めたとかいう酔狂な奴から、今回打診があったのだ。
「───たった一度見ただけで、動く人間っていうのもいるんだよ、悠理」
兄ちゃんは天井を仰ぎ、大きく溜息。
「まあ、まだ正式な申込も来てないし。でも一応、知っておいたほうがいいだろう?」
「……まあ、ね」
あたいは曖昧に返答したけど、心の中ではかつての清四郎との婚約騒動が、悪夢のように蘇る。
思わず頭をかかえたあたいを見咎めて、兄ちゃんが慌てて言い添えた。
「あ、悠理、お前の場合、外部には一応今も婚約者がいると認識されてるはずだから」
「へ?」
首を傾げて問い返すと、兄ちゃんは一度開いた口を閉じてから、あたいをまっすぐ見詰めて。
「……清四郎君とのあれだよ」
その言葉に、あたいの思考はフリーズした。


凍った思考のまま部屋へ戻り、枕を抱えてベッドの上に丸くなる。
(……どうしてだよ)
反芻するのは、清四郎との婚約が、対外的に事実だとされている現状。
双方の両親合意の下、本人たちに知らされず措置されてた事に対して、ショックは大きく。
あたいはただもう、枕に顔を埋め、呻くだけ。
(何でだよ!あの時清四郎がどんくらい苦しそうだったのか、兄ちゃんも見てたのに……)
いくら聡明だといっても、高校生だっていうのに、急に剣菱を動かすことになってしまった清四郎。
目に見えて不健康になって、笑顔も何もなくなってたのに、どうすることもできなくて。
結局あたいにできたのは、雲海のじっちゃんに頼んで、奴を負かしてもらう事だけだった。
───もう、あんな清四郎なんて見たくない。
「どーしよ……」
ぽつりと言葉が口から漏れ出すと、我慢していた心が堰を切ったように溢れてくる。
「ねぇ、どうすりゃいいんだよ。あたい、馬鹿だから、わかんないよ」
不安がどんどん増してきて、心がぎゅうっと苦しくなって、おまけに視界まで滲んでくる。
「……っ、ふ……」
唇を噛み締めて叫ぶのを堪えるけど、本当は大声を上げて泣きたい。
頭の中で、いつも自分を助けてくれる、仲間たちを思い浮かべて。
何より、頭が良くて冷血漢で小言が多くて性格悪いけど、本当は優しい男を思い浮かべて。
───たすけて。
声に出してしまったら、あいつに聞こえてしまいそうな気がして、心の中だけで絶叫した。

「……全く……」

溜息混じりに耳に届いた、自分じゃない人間の声。
近付く気配が、頭をそうっと撫でてくる大きな手の温かさが、鼓動を高鳴らせる。
「毎日伝えていたでしょう?『あまり無理をしないように。何かあれば、必ず助ける』と」
呆れたような、それでも泣けてくるほど優しい声が、耳元に届く。
「あれ程毎日繰り返していたのに、お前は本当に、馬鹿ですねえ……悠理」
思わず枕を抱き締めると、清四郎の両手がそっと、あたいの手を包み込んだ。
大きな手の優しい温もりが、あたいの手から力を抜かせて、枕から離す。
そのまま力をかけられて仰向けにさせられると、優しい光の黒い瞳がじいっとこちらを見ていた。
「せ、い……しろ……」
しゃくり上げながら名前を呼ぶと、清四郎は頷いて、あたいの瞼に唇を寄せて涙を吸い取ってくれた。
軽くて温かくて優しい感触に、もっと涙が溢れてしまって、ぎゅっと瞼を閉じてみる。
「こら、悠理、目を開けなさい。我慢なんて必要ないから」
清四郎の優しい一言に、あたいは首をふるふると振って、せめてもの抵抗。
すると、先程からやたらと近かった清四郎の気配が、一瞬遠ざかる。
───呆れられた?
動揺して目を開けたあたいの視界に飛び込んできたのは、予想以上に至近距離の清四郎の顔。
「!?」
思わず息を飲むと、清四郎は微笑して、あたいの頬を大きな手で包む。
「……今度は、目を閉じて。待ちませんけどね」
落ち着き払った声で告げると、あたいとの距離を近づけて。
あたいは慌てて、ぎゅうっと目を閉じた。


唇が触れるだけの、優しいキス。
目を開けて最初に見た清四郎の表情は、どこまでも穏やかで、綺麗だった。
奴はそのままあたいの横に寝転がって、ぎゅっとあたいを抱き寄せる。
服越しに押し付けられた清四郎の胸から、規則正しい鼓動が響いて、妙な安堵感を覚えた。
目を閉じて、その鼓動を感じていたあたいを、清四郎が呼ぶ。
「悠理」
「……何?」
目を開けて清四郎の方を見ると、奴はふっと表情を緩め、驚く程の穏やかな笑顔を見せてくれた。
「もう大丈夫ですからね」
「?」
唐突な台詞の意味がわからず、思わず首を傾げると。
「お前の縁談です。勿論、正式な申込なんてさせませんよ。僕との婚約があるんですから」
さらりと、とんでもない発言をして見せるもんだから、あたいは一瞬硬直。
そして立ち直ると、慌てて怒鳴り返す。
「な、お前正気か!?そんなん無効だろ?あたいもお前も承知してない婚約なんて……」
「───補足しておきますとね、予想できていたんですよ、今回聞いた話は」
「へ!?」
意外な事を涼しい顔で言われてしまい、あたいは間抜けな声を上げ。
清四郎は、あたいを優しく抱き締めたまま、言葉を続けた。
「剣菱ともあろうものがあれだけ大仰な会見までして、すぐ解消というのも不都合が生じますでしょうからね。どうせ、こんな事だろうとは思っていました」
何事もなかったかのように、さらりと言ってのける清四郎に対して、何だかムカついたけど。
「……っ、だ、だったら何で、あたいに教えてくれなかったんだよ!」
「お前はすぐ態度に出ますからね。また僕に、普通に接することができなくなるでしょ?」
「ぐっ」
反論しても、清四郎に痛い所を突かれ言葉を失う。
そんなあたいの様子を見てから、清四郎は声を少しだけ低くして、囁いた。
「悠理。僕は確かに昔お前を苦しめてしまったけど、お前を嫌いなわけじゃないんだ、昔も今も」
「清四郎?」
何故今そんな事を言われるのかわからず、いぶかしむあたいの唇を、清四郎の指が制した。
「最後まで聞いて下さい。今更ですが、僕はみんなが言う通り、恋愛や結婚に興味も関心も抱けないし、必要性すら感じていない。女性にも、知的好奇心や興味でしか近付けない。この性格は、恐らく変えようもないでしょうね、一生」
そこまで言った清四郎の、自嘲気味な笑顔が辛くて、思わず奴の服をぎゅっと握った。


「でも、お前や野梨子や可憐に対しては別です。みんなは僕の大切な友達で、嫌いだとは全く思いません。みんなに危機が迫ったときは、出来る限り力になりたい。この言葉、信じてもらえますか?」
縋る様な声での問いかけに、あたいが無言で頷くと、清四郎は安堵の表情を見せて言葉を続けた。
「お前には、さっきのように一人で泣いて欲しくありません。泣きたいのなら、僕の胸ぐらいいつでも貸します。一度失敗した以上、同じ轍は二度と踏みませんから、剣菱の経営に関しても前のようなへまはしません。何より、お前が意に沿わぬ結婚で笑顔を曇らせるのを、二度と見たくはありませんよ」
「……清、四郎……?」
真っ直ぐこっちを見て話す清四郎の言葉に、思わず名を呼んでしまったけれど。
清四郎は気にせずに、あたいを抱き締める腕に力を込めて、囁いた。
「悠理。僕はお前を愛してるわけじゃないが、お前の事を守りたい。何より相手がお前なら、僕は結婚もできると思っているんです。お前は、僕と結婚するのは嫌ですか?」
「───はあ!?」
清四郎の爆弾発言に、あたいの頭の中は一気にフリーズ。
どうしていいのかわからず固まるあたいに、清四郎はなおも続ける。
「僕も一応、人間ですからね。将来設計のひとつやふたつ、頭の中でシミュレーションした事もある。そのとき、仮初に『結婚』を考えてみた事がありますが……面白い事にね、悠理。僕の選択肢には、最初から悠理しか入っていなかったんですよ」
「へ!?」
「家族同然に同じ時を過ごしている野梨子と、夫婦生活などしたくはありませんよ。互いの長所も短所も知り尽くしているし、小さい頃に裸まで見慣れた相手を『妻』として抱くことなんぞ出来ません。可憐はきっと、絵に描いたような良妻賢母になるでしょうが、僕のような人間相手に耐えられるとは思えません。更に他の人間なんて、誰も思いつかなかった。……ああ、いけないな、話が随分逸れてしまいましたね」
清四郎は苦笑いして、結論を言った。
「不思議でしょう?僕はこんな人間ですし、お前は僕と真逆の、自分の感情のままに生きる人間です。でも───きっと、お前と一緒なら、僕はずっと、人らしく笑っていられると思ったんです」

清四郎の言葉は、あまりにも予想外過ぎて、どうしたらいいのかわからなくって。
あたいはとりあえず、火照った顔を隠したくて、清四郎の胸に顔を埋めた。
「悠理?どうしました、また泣きたくなりましたか?」
清四郎が見当違いの事を言って、それでも頭を撫でてくれるのが嬉しくて、笑みが浮かぶ。
とりあえず、自分が嫌われてなかったのと、結婚相手として考えてくれてるのは理解できた。
しかし、しかしである。
だからと言って、そんなに簡単に『結婚』なんぞ決めてしまって、良いのだろうか。
(ど、どうしよう)
激しく焦り、無意識に清四郎の服の裾を、一層強く握ってしまう。
すると清四郎が、あたいの手に自分の大きな手をそっと重ねて、握ってくれた。
男の人の大きな掌が、自分の手をしっかり包んでくれているのは、思いがけず安堵感をもたらして。
(あったかい……)
ふと閃いたのは、この手が近くにあるなら、大丈夫なのかもしれない、という事。
「……あのさ、清四郎?」
清四郎の胸から顔を上げると、奴はあたいの顔を覗き込んでいた。
探るかのような強い光を湛えた瞳が、こちらをじいっと見詰めていて、鼓動が高鳴る。
「何ですか、悠理?」
「ん、あの、ね。あの……」
思わず言い淀むあたいの頬に、清四郎の優しい唇の感触。
途端に火照る頬とは逆に、心が段々凪いでいって、あたいは清四郎を見つめ、微笑んだ。
「あの、ね……あたいもさ、結婚なんて考えた事もなかったから、よくわかんないんだ」
「……ええ」
清四郎は、じっとあたいの言葉に耳を傾けてくれているから、顔が火照っていても、続きを話す。
「でもさ、清四郎となら……何ていうのか、うん、大丈夫だと思う」
「悠理」
「あたいも、好きだとかそういうの、わかんないけど……きっと、清四郎なら、一緒にいられる。清四郎がいてくれるなら、その……大丈夫だって、思うんだ。そういうのって、駄目?」


あたいの言葉を聞いてから、清四郎の表情が輝いて。
「───構いません」
低い優しい声と一緒に、苦しいほどの抱擁がやって来た。
「せ、清四郎、苦し」
「ああ、すみませんね。今しばらく我慢して下さい」
体が潰されてしまうかと思うほどの力で抱擁され、暴れたあたいを、清四郎が宥める。
それでも体に回された腕が、ほどかれることはなかったけれど。
やがて、清四郎は静かに言葉を紡いだ。
「悠理。これから僕とお前は、言わば詐欺師になりますよ」
「へ?何で」
聞き返すあたいの頬に、清四郎は再度唇を落としてから、答えてくれた。
「僕たちは、互いに恋愛感情を持たないまま、結婚するんです。わかりますか?世間一般の常識を無視して結婚生活を送るというのは、みんなを騙すことと一緒です。それでも、いいですか?」
あたいはちょっとだけ、考えてから、大きく頷く。
「大丈夫だよ。だって、お前がいてくれてんだから。だろ?」
そう言うと、清四郎は一度目を大きく開け、破顔した。
「───お前の度胸はさすがですな。詐欺の共犯に相応しいですよ」
「共犯者って、何か犯罪者っぽいぞ。でも夫婦ってのより、しっくり来る感じ」
「ああ、そうかもしれないですね。僕たちには相応しいかもしれません」
あたいたちは、お互いに顔を見合わせ、笑った。


   *


 甘酸っぱい恋じゃなく。
 甘ったるい愛じゃなく。

 必要なのは、一生一緒に過ごす人。

 人生全部、共犯になれる、相手。

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» 無題
でもこの二人の関係って、こういうのもありな気がします。清四郎君のプロポーズは女性は悠理しかいないって言ってるのと同じですよね。
涙で読めません… 2008/06/19(Thu)22:28:36 編集
» いやん♪
十~~~~~~~分っ甘いと思うんですが?
清四郎、恋愛感情が無いとか言いながら何気に”何回も(←強調!笑)”キスしてましたしw
悠理も受け止めちゃってるどころか、喜んで照れちゃってるしぃぃぃぃ♪
「人生全部、共犯になれる、相手。」って素敵ですよね!
この2人にぴったり。だって、これからも何事か必ず、やらかしてくれると思いますしw
りん 2008/06/19(Thu)23:35:08 編集
» コメントありがとうございました
>涙で読めません… の方
コメントありがとうございます!
本来極甘文章書きな管理人ですが、清悠ならばこんなシチュエーションもありかと思いまして。
ご賛同いただけて嬉しいです、ありがとうございました!

>りん様
甘いですか!?どうだろう…(汗)
でも何気に清四郎が数多くキスしてたり、悠理も真っ赤になっても拒まなかったり……。
これで「付き合ってない」って話だと、確実に周囲から白い目で見られそうです……。

皆様、どうもありがとうございました!
M@管理人 2008/06/20(Fri)00:19:36 編集
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プロフィール
HN:
シスターM
性別:
女性
自己紹介:
国産ヒト型40代、夫・息子1人がいます。徒然なるまま…ではないですが、勢いに任せ、所謂二次創作をちまっと数年続けてます。
当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。
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