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綺麗事では、きっと貴女を守れないから。
『Swindler』
愚かにも、自分の可能性を過信した結果、失ったものは。
自信でもなくプライドでもなく、貴女の笑顔であったと思う。
しかし貴女は、僕にも他の誰にも何も言わず。
僕がそれを悟ったのは、ずっと後。
たまたま部室には2人しかいなかった、あの日。
僕は生徒会の仕事中で、貴女は課題の勉強中だったとき。
「……なぁ、清四郎」
「何ですか?」
不意になげかけられた言葉に、パソコンから顔を上げれば。
貴女は僕を見て、微笑んでいた。
柔らかく、儚げに。
僕の心に、細波が押し寄せる程。
「どうしました、悠理」
「ん?……へへ、ゴメン」
貴女は一度言葉を切り、そして続けた。
「お前さ、顔色いいな。ちゃんと飯食って、眠れてんのな」
「は?ええ、まあ、そうですね」
「ウチにいた時ってさ、全然まともに休めなかったろ。……良かった」
「……。それはどうも」
「ん。あ、いけね、こんな時間!残りやらなきゃ!」
上気しそうになる頬を自覚しつつ、ちらりと貴女を見ていると。
貴女は既に下を向き、僕の視線に全く気づく気配がなかった。
でもその白い耳が、傍目にもわかるほど赤く染まっていたのがわかって。
僕は心の中で、貴女に再度、感謝の言葉を述べた。
あの時最も翻弄され、傷ついたのは、貴女だったのに。
それでもなお僕を労わる、優しい心が胸を打つ。
「……悠理」
「ん?」
ごく自然を装って、かつてのように頭をそうっと撫でてみると。
貴女は何の抵抗もなく、僕の手を受け入れてくれて。
僕がどれ程癒されたのか、知らないであろう貴女の表情が、嬉しいと思う。
「来週、英語の小テストらしいですね。担任から聞きましたよ」
何気なく口にすると、途端に表情がくちゃっと歪んだ。
更に頬をぷっくりと膨らませ、目に見えて不機嫌になる。
「ひでぇな清四郎ー!せっかく忘れてたのに、思い出させんなよ!」
「忘れていたら、なお拙いでしょう。ちゃんと対策を練って、勉強しないと駄目でしょうに」
「えぇぇぇぇ」
僕の指摘に、まるで首でも絞められているかのような呻き声。
かつてと変わりない、万華鏡のような激しい感情の変化。
相変わらず、見ていて飽きない奴だと思わず微笑んでしまう。
「大丈夫ですよ、悠理。僕が見てあげますから」
「……マジ?良かったぁ、清四郎ちゃんありがとー!」
「どういたしまして」
貴女の満面の笑みに、微笑を返す自分。
単調かつ平凡な、それでいてかけがえのない時間。
戻った日常に、酔いしれた。
*
時を経て、僕はあの時性急に事を運んで仕損じた場所へ、再び戻った。
2度目のそれは、早急な結果を求められず、自分も焦りはしなかった。
急に剣菱万作氏が体調を崩したとか、豊作氏から懇願されたとか、背景には色々なことがあり。
周囲が僕を推挙する中、貴女は強固に反対していたが。
最終的には、僕が自身の決断によって応じ、渋る貴女を説き伏せた。
「……なあ、清四郎」
「何ですか?悠理」
「ごめんな。またお前に迷惑かけちゃって」
時を経て、盛装もすんなりと馴染むようになった貴女は、社交界でも評判の佳人。
しかしそんな貴女が目に見えて憂い顔なのは、間違いなく今、この日のため。
正確には2度目となる、僕との婚約のお披露目。
「……」
ふんわりと軽い素材の緋色のドレスをぎゅ、と握り締め、俯く姿。
かつて見たような、苦しげな顔。
そんな貴女を見たくないから、自分はここに来たのに。
「悠理」
僕は思わず手を伸ばし、白いレースの手袋を嵌めた細い手を取る。
優しく手を握って、僕の心を少しでも伝えるために。
黙って手を取られた貴女は、素直に僕へと視線を向けた。
「大丈夫ですよ。僕を信じて下さい」
「でも……」
「約束したでしょう?僕たちは人生の共犯者になる、と」
「……清四郎」
「僕の気持ちは変わらない。必ずお前を、一生守り抜いて見せますから」
溢れそうな程の不安を湛え、それでも僕を真剣に見詰めるまなざしに、陶酔しそうになる。
それは全て、僕だけに向けられたものであるから。
誰よりも真っ直ぐに、綺麗な感情を曝け出してくれる貴女が、誰よりも綺麗だと思えた。
「僕は自分で、ここに立つことに決めたんです。誰にも邪魔はさせません、絶対にね」
そう言って微笑むと、僕は貴女の手袋越しに、手の甲へひとつキスを落とす。
不安げに瞳を彷徨わせていた貴女は、もう一度僕を見詰めて。
そっと、呟いた。
「そうだよな。あたいとお前、共犯だもんな……ありがとう」
確かにあの日と同じ、貴女の笑顔。
どこまでも僕の事を気遣い、安堵してくれたときのもの。
その笑顔を向けて貰えるなら、僕は何でもできる。
「さあ、時間です。行きましょう」
「うん」
僕が差し出した手に、躊躇いなく添えられた白く小さな手。
この温もりを、絶対に守りきって見せようと、誓った。
*
貴女はいつも、綺麗だ。
純粋で、純真で、無垢で。
そんな貴女の美しさを、守る事ができるなら。
僕は、闇にも染まろう。
きっと貴女が笑ってくれるなら。
光が、見えるから。
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。