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暇人が開設した二次創作保管庫です。「二次創作」をご存知ない・嫌悪を覚える方は閲覧をご遠慮ください。漫画『有閑』の会長と運動部部長を推してます。
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本当は「清四郎の嫉妬」を書きたかったのです…。
しかし彼らを動かしてみると、笑える程の馬鹿ップルぶりに涙しました。
よって、無駄に甘いだけの話となっております。

 僕の彼女は、退屈が嫌い。

 

 『暇潰し』

 

今日、自分の家で会う約束を悠理としたのは、昨夕の電話。
なのに大学のゼミ担当教官から、昨夜付けで届いた一通のメールが、全てを狂わせた。
内容は、先週提出したレポートに係る追加資料の提出依頼で、期限は月曜日の午後1時。
幸いな事に、資料自体は全てデータ保存済みであるため、新たに用意する必要はないものの。
適切なものを選んで纏めるためには、ほぼ半日を犠牲にせねばならぬ量。
そして、本日は日曜日。
「全く……幾らなんでも、あまりにタイミングが悪過ぎますよ」
忌々しい文章を反芻する度に、恨み言のひとつも吐きたくなるというもので。
迂闊にも、いつの間にか、悠理と約束した時間になっていたのにも気づかなかった。
「あれ、何で眉間に皺寄せてんの?お前」
既に顔パスで自宅へと通されていた彼女の声で、はっとする。
「ゆ、悠理!……もう、こんな時間だったんですね」
「あたいにしては、珍しく時間通りに着いたと思ってたんだけど……」
やや上擦った僕の声をどう解釈したのか、悠理は訝しげな表情で、僕の顔を覗き込む。
「どうかしたのか?清四郎。ここ、物凄く深い溝になってる」
そう言うなり、彼女の白く細い指が、そっと僕の眉間を撫でた。


不思議なもので、悠理が傍にいてくれるだけで、自分の心が落ち着きを取り戻していく。
「何でもありません、と言いたいところなんですがね。残念ながら……」
僕はやや大仰な溜息を一つ吐いて、悠理に状況を説明した。
悠理は存外に落ち着いた態度で、余計な茶々を入れずに話を聞いていてくれて。
「んじゃどうする?あたい、今日このまんま、引き返した方が良い?」
いかにも彼女らしい、気の遣い方をしてくれた。
しかし、実際に顔を見て声を聞いた後となっては、離れ難いのが当然というもので。
「……いいえ」
僕は静かに、でも有無を言わせぬつもりの気持ちを込めて、彼女へ告げる。
「作業自体は、2時間程度で完了させます。だから、それまで待っていてもらえますか」
正直、無謀な挑戦だという危惧が、頭の中を掠めたが。
せっかく来てくれた悠理を、このまま家に返すなどできなかった。
と、いうよりも単に僕が、彼女を少しでも近くに感じていたかった。


かくして、悠理はあっさり待つことを了承してくれたが。
「そんならさ、あたいゲームしててもいいよね?」
満面の笑みで言い出す彼女を待たせる身として、僕に拒否権は勿論存在していなかった。
「……まあ、そうですね」
「おっし!」
悠理はホクホク顔になって、持参していたバッグから、携帯用のゲーム機を取り出す。
見るも鮮やかなビビッドカラーのその一品は、スワロフスキークリスタル使用の特注品。
……だが、やはり柄がタマフクなのは、悠理ならでは。
「あ、清四郎、あたいヘッドホンすっからな。音漏れしてたら教えて?」
「ええ、わかりましたよ」
「ん。そんじゃお前も頑張れよな、あたいもコレ頑張ってっから!」
これまたゲーム機とお揃いの、輝くタマフクが両方で笑ってるヘッドホンを耳に掛け。
悠理は、まさに弾けるような満面の笑みを見せてから、徐にスイッチオン。
子供のように、わくわくした表情で、画面に視線を固定した。
(よりによって、ゲーム機持参でしたか……。珍しく用意周到でしたね)
既に僕ではなく、画面に意識を集中させている彼女を見て、少々口惜しい気分になる。


悠理はとにかく、退屈な時間が嫌い。
そんな彼女が最近気に入っているのが、携帯用のゲーム機。
持ち歩いている事に気づいたのは、確か半年前ぐらいだったろうか。
「いつも持ち歩いているんですか?」
「うん!講義の間の待ち時間とか、友達と通信できて楽しいんだぞ!」
満面の笑顔で回答されて、思わず「良かったですね」と微笑むしかできなかったのだが。
実際に、自分そっちのけで集中している様を見せられるのは、気分のいいものではない。
しかし今回に限っては、目の前の課題を終わらせない限り、どうしようもないのが事実で。
僕は思い溜息をつくと、漸く作業を開始した。
(……さすがに、2時間で全てを完了させるのは、かなり難航しそうですね)
資料の一覧を表示させたモニターの画面を見つめ、うんざりする。
それから、横目でちらりと悠理を見やったが。
やっぱり彼女は、僕ではなくて、ゲームに釘付けとなっていた。


作業開始から、1時間と53分が経過。
我ながら奇跡的な早業で、僕は無事に追加提出する資料のCD-ROMを完成させた。
ふと悠理を見てみると、偶然にもゲームがひと段落ついたようで、顔をこちらに向けている。
僕が微笑んでみせた事で気がついてくれたらしく、ヘッドホンを外した。
「清四郎、もしかしてソレ、終わったのか?」
「ええ、きっちりとね」
完成したばかりのCD-ROMを掲げ、頷いてみせると、悠理は途端に表情を輝かせて。
「すっげー!ちゃんと2時間以内じゃん。お前ってさすがだな、清四郎!」
拍手まで送ってくれて、何だか面映い心地になった。
それから悠理は、ゲーム機を慌ててケース(これもタマフク柄)に仕舞い込み、鞄へ収納。
全てを終えると、漸く僕のいる机までやって来てくれた。
笑顔の彼女が愛しくて、僕はさっそく腕を伸ばし、その華奢な体を引き寄せる。
膝の上に抱き込んでから、ふわふわした髪に顔を埋め、いつものシャンプーの香りを確かめた。
「待たせてしまってすみませんでしたね、悠理」
「……平気。だってあたい、ゲームとかやってたし」
僕の謝罪にも悠理はふるふると首を振り、心持ち僕へと体重を掛けてくる。
照れ屋な彼女らしい、控え目な甘えっぷりが嬉しく、思わず腕に力を込めた。
本来であればそのまま彼女へ覆い被さり、思う存分気持ちを確かめ合いたいものだが。
まだ日も明るいとか、そもそもここは実家で家族が階下にいるとか、痛い現実が思い起こされて。
結局僕は、理性を総動員することにより、昂る感情を何とか押さえ込んだ。


珍しい事に、悠理が大人しく体を預けてくれているので、柄にもなく頬が緩むのを自覚する。
その時、ふと頭の中に閃いたひとつの疑問を、どうしても確かめたくなった。
「悠理」
僕は即座に、彼女の名を呼んだ。
「ん?何だよ」
「ゲーム機って、今ずっと持ち歩いてるんですよね、確か」
「?う、うん、そう」
「今まで尋ねたことがなかった筈ですが……そもそもどうして、それを購入したんですか?」
「へ!?」
僕の指摘に、何故か悠理の声が思い切り裏返り、あからさまに僕から視線を逸らした。
その態度がどうにも腑に落ちず、僕はじいっと彼女を見つめる。
「んな、な……何で、そんな事急に、聞くわけぇ?」
「そこまで動揺せずともいいでしょう。それとも、僕に言えないような理由でも?」
心持ち声を落として悠理との距離を詰めると、彼女は明らかに怯えた顔。
別にそこまで恐怖を与えたつもりもなかったのだが、これではまるで自分が苛めているかのようで。
どうしたものか、と視線を逸らして考えようとした。


すると、腕の中から、か細い声。
「……あのさ、清四郎……」
見てみると、唇を噛み締めて、上目遣いの必死な表情をした悠理がいて。
「大した事じゃないんだよ、マジで。でも……その、お前、呆れたり怒ったり、しない?」
「は?」
「だからさあ、下らない理由なんだって。その、ゲーム機買った理由って」
どうやら悠理は素直に白状するつもりのようで、しかも僕の反応を恐れているらしく。
僕は悠理にしっかりと頷いて、ついでに軽く額に唇を落とす。
悠理はやがて諦めたように、たどたどしい口調で話してくれた。
曰く。
「清四郎が忙しいときが多いから、暇潰しに最適だぞ、って魅録に薦められた」
と。
「だってあたい、退屈なのって嫌いだし、でも、お前っていっつも忙しいだろ?」
だから、どうしようかと考えて、魅録に相談してみたのだそうで。
「今日みたいに、お前が急に忙しくなった時にも、暇潰しとかしてられれば……その」
「何ですか?」
口篭る悠理の顔を覗き込んで、続きを促すと、彼女は渋々と言った様子で、呟いた。
「……やってる事が違ってても……せめて、傍にいる時間は、増やせるかな、って……」


驚く程に真っ赤になった悠理の、頭がくらくらするような口説き文句。
僕は到底抗えるはずもなく、先程頑丈に絡めたはずの理性の鎖を豪快にむしり取って。
即座に悠理を抱きこんで、深く深く、魂すらも絡めあうほどに口付け合って。
やがて、息も絶え絶えになった悠理がぐったり倒れ込むのを、しっかりと腕で支えた。
(全くもう……お前はどこまで、僕を溺れさせようとするんですかね)
執拗なキスで腰が砕け、ただ自分に体重を預けるしかない悠理の体を、再び抱き締める。
髪から香るシャンプーの香りは、彼女愛用の柑橘系。
甘く爽やかな香りに包まれ、僕は一つの事実に辿り着く。
即ち、もう面倒な課題は終わった事と、明日の講義はゼミが最初であるという事。
「……大学には、午後イチで辿り着けば十分ですよね」
頭の中で算段し、それから悠理を一度自分のベッドに横たえて、通学時の鞄を取り出す。
明日の講義内容に合わせて準備をすれば、もう完了。
未だにぐったりと、起き上がる様子のない悠理の頭をひと撫でしてから、携帯を取り出して。
「もしもし、こちら菊正宗ですが、はい……」
既に何度もかけて馴染んだ通話相手へ、連絡と車の手配の依頼をした。
それから、階下の両親へ一言。
「悠理が疲れているようなので、今から剣菱家に送ってきます。明日はあちらから登校しますから」


    *


僕の彼女は、退屈が嫌い。
そして僕は、彼女のいない空間が嫌い。

僕たちは、お互いがいないのが、一番嫌い。

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» きゃん♪
嬉しいっ!2本一気読みw

「限りなく馬鹿に近い秀才へ。」
まさに計画的犯行!確信犯!!なのに必死な清四郎♪
すっごい幸せそうな笑顔なんでしょうねぇ。
一体何時から計画練ってたんでしょ?
悠理が感じた視線の様に、清四郎も視線を感じて早く捕まえたかたんでしょうか。
冷静な悠理ってカッコイイですよねぇ。

「暇潰し」
悠理可愛いっ!清四郎も溺れるハズだわ。
こんな可愛い彼女手放せませんよね~♪
ホント清四郎てば幸せ者!
そして明らかに計画的に脱力させたのは流石です(笑)

2本ともまったく違うお話なのに、とっても優しい感じがして大好きです。
りん 2008/06/22(Sun)01:14:17 編集
» いつもありがとうございます!
>りん様
「限りなく…」
どうも私が書くと、清四郎は計算高くて優秀なくせに人の心の機微を読みきれないようです(汗)
今回は、豊作さんがひっそりと協力してたりすると個人的には嬉しいかな、と。
お馬鹿でも無邪気な悠理は大変可愛らしいのですが、ウチの悠理はその辺が控え目になっちゃいそうですね。自分が書くのが楽なので(コラ)

「暇潰し」
こんなラブラブ馬鹿っプルな話になる予定なかったのですが、気がつけば修正不可能に(照)
月曜日は恐らく、剣菱家の車で大学に突撃しそうですね、清四郎も。

丁寧な感想をありがとうございました!
M@管理人 2008/06/22(Sun)13:45:34 編集
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自己紹介:
国産ヒト型40代、夫・息子1人がいます。徒然なるまま…ではないですが、勢いに任せ、所謂二次創作をちまっと数年続けてます。
当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。
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