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すっかり停滞した拙宅へのご訪問ありがとうございます。
いい加減シリーズ物もネタを…(汗)少しずつ頑張ってみます。
えー、卒業式シーズンですね、ということで。
唐突に思いついた駄文を1作投稿です。悠理一人称。
春も近付き、かなり頭の中身が熱でヤラれた一文です。ご容赦を。
ああ、これが、最後なんだって。
柄にもなく、じいんと来た。
『ラストコール』
絵に描いたような『お日柄の良い』吉日ってヤツに。
厳かな雰囲気の中執り行われたのは、聖プレジデント学園高等部の卒業式。
今回は……まあ、無事に主役で送られる側を勝ち取る事に成功した。
「何を言ってるんですか、苦労したのはお前だけでしょ」
(……うっさいぞ!清四郎)
あたいのモノローグにまで突っ込む男の皮肉にはシカトを通し、クラスの奴らと一緒に入場。
長い人間は幼稚舎からの、最後となる制服に袖を通し、厳粛に式を迎える。
涙にむせぶ者もあれば、晴れがましい表情をしている者もいて。
脇に控える保護者席などは、生徒以上に我が子の姿に感涙を覚える人達の集団。
勿論ウチの両親だって、しっかり揃って参上してた。
(……何であんなに目立ってんだよ……)
今更ながら、考えるだけ無駄だって、わかっちゃいるんだけど。
「悠理、流石ですわね、おじ様とおば様は」
「本当よねぇ。おじ様はいつも通りのスタイルだし、おば様は……えーと」
「……最近の流行は『リバイバルなゴスロリ』だって……」
「ああ!それであのドレスに帽子なんですわね。スタイルがおよろしいから、案外お似合いですことよ?」
「皮肉はよせやい……」
野梨子や可憐の、呆れ9割賛辞1割の批評を聞きながら、あたいは溜息をついた。
滞りなく式も進み、いよいよメインの卒業証書の授与。
「剣菱悠理」
「はい!」
普段はそんな風にフルネームで呼ばれたりもしないし、呼ばれる機会もない担任。
だけど今日は特別の、そして最後の日だから、今更騒いだりもしない。
何度も教わった証書授与の際の手順を、一応頭の中で思い返して。
一応それっぽく見えるように、紙切れを受け取った。
(……コレ貰えるまでが、長かったんだよなぁ)
この場所に立てるようになるまでの、無駄に長い苦労の歴史が、まざまざと思い起こされて。
うっかり礼を一回忘れたかもしれない、なんて思った。
全員が証書を受け取った後に校長の訓辞や送辞なんかがだらだら続き、いよいよ生徒会長の、答辞。
「生徒会長、菊正宗清四郎君」
「はい」
凛と響くバリトンと、遠目でもすがすがしく映るあいつの立ち姿が、不思議にぼやける。
なんで、と思いながら、視線だけは外さない。
朗々と高らかに、居合わせた全ての人を感激させる答辞をきっちり読み上げた清四郎は。
やけに満足げな顔をして、ゆったりと席へ戻って行った。
(……ちっくしょー)
あいつって奴は、最後まで完璧にカッコイイ男、演じやがって。
不覚にも見蕩れてしまった、自分がかなり恥ずかしかった。
……一部の在校生席で「清四郎ハーン!」という号泣がした気がするけど、それは無視。
そして。
あたいたち『有閑倶楽部』の長き高校生活、終了。
「……あー、終わったぁー!!」
「そうですねぇ」
肩の凝る卒業式と、その後の謝恩会も、無事クリア。
今あたいは自分の部屋で、新しく作ってもらったフクの着ぐるみパジャマでゆったりしてた。
ちなみに隣には清四郎がいて、こっちはタマの(さすがに着ぐるみではないが)アップリケ付きパジャマ着用。
奴曰く「最近慣れてきた」そうで、来年中には着ぐるみに替えてやろうかと、こっそり算段してるのは秘密。
「漸く高校生って肩書きが外れるんだよなぁ」
「全くですな。何が悲しくてこの僕が、4年間も高校生活を送る羽目になったものやら」
大仰に溜息をついた清四郎が、わざとらしい流し目であたいを見るのは、お約束。
「う、うっさい!お前だってコンピューターで帳消しにしたじゃんかっ!」
「ええ、まあ、そうですが」
あたいの苦し紛れの言葉に、清四郎は何か含むものがあるような言い方。
ちくしょー、昔っからだけど、このモノの言い方は非っ常にムッカツク!
「……何だよ!お前、言いたいことあんならハッキリ言え!」
あたいは何だかムカついて、腰掛けていたソファから立とうとすると、即座に清四郎の手が伸びて。
「うわわ!?」
「すみません、もう過去の事でしたよね。今持ち出すべき話題ではありませんでした、謝罪しますよ」
やけに優しい声と共に、変に優しい抱擁で、あたいを捕まえたもんだから。
「………………じゃ、この話、もう終わりな」
「ええ」
あたいは仕方なく清四郎に体重を預け、そっぽを向いて呟いて。
清四郎は静かに囁くと、こめかみにそっとキスしてきた。
そのまま、少し時間が経過して。
「ねえ、悠理」
「ん?」
名前を呼ばれたので、振り返ってみると、清四郎は真剣な顔。
「思えば今日で最後なんですよねぇ」
「へ?何が?」
言葉の意味がさっぱりわからず首を傾げると、清四郎は途端に困ったような笑顔になって。
溜息をひとつ零してから。
「お前を『剣菱悠理』と呼べる日、がですよ。だって、僕らは明日入籍でしょ」
その言葉に、あたいははっとして。
「あ……そだった」
途端にぼぼっと、頬が燃える程に熱くなるのを感じた。
そんなあたいの様子を見て、清四郎がやけに綺麗に笑う。
「全くもう、忘れないで下さいよ。……貴女は明日から『菊正宗悠理』なんですからね」
「……はぁい」
あたいの返答に、清四郎はにっこりと頷いて。
「いい返事です」
*
19年目にして、ラストコールの自分の名前。
今まで、ありがとう。
明日からは、好きな男の苗字を貰って。
新たな名前をファーストコール。
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。