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書きやすいので馬鹿っプルネタで(オイ)
作中に出てくる聖火トーチについての知識はうろ覚えですが、走ったら貰えるのは本当です。
夫の亡父が実際に走ったので、夫の実家にあるんですよ、銀のやつが。
万作さんだったらランナーぐらいやりそうなんで、使ってみました。
「あれ?」
倉庫の片隅に、ぽつんと。
それがいた。
『傍迷惑な宣言』
手に取ってみると、案外重量感がある。
ぶんぶんと、振り回すものではないらしい。
「何だ、これ?」
ヤバい感覚はしないから、霊の類は関係ないんだろうけど。
気になって、持って出ることにした。
「あ、五代」
「何ですか、嬢ちゃま」
「コレって何?」
とりあえず、家のことなら五代に聞くのが確実。
あたいはそう思って、手に持っていた物を示してみた。
すると、五代が懐かしそうに、目を細めた。
「おお、嬢ちゃま……随分と珍しい物をお持ちになりましたなあ」
「……これ、何?」
首を傾げると、五代はにっこりと笑って、教えてくれた。
「それは聖火トーチですよ」
「聖火トーチって?」
「オリンピックの聖火リレー、というものがございますよね?あれでランナーが聖火をつけて走るものです」
「へぇ……」
あたいは手に持っていた、トーチをしげしげと眺めて。
ふと、疑問が湧いた。
「何でウチに、こんなモンがあるんだ?」
すると五代はにっこり笑ったまま、正解を教えてくれた。
「昔、若が、ランナーをお務めになったのですよ」
「父ちゃんが?」
「そうです。若は大層スポーツマンでおられましたからなあ」
「ふぅーん……」
頭の中に浮かんだのは、今の父ちゃんが、ランニングとパンツ姿に鉢巻締めて。
満面の笑顔で聖火を掲げ、アケミやサユリを従えて走ってる図だった。
……何か、違うかも。
*
自分の部屋に戻って、あたいはソファに腰を下ろし、トーチを眺める。
古ぼけた銀色のそれは、ランナーを務めた人間のみが持ち帰りを許されるという、品だそうで。
よく見れば、五輪のマークもしっかりと入ってる。
(父ちゃんって、案外凄いかも。へぇ)
本当は大財閥の会長で、それだけでも十二分に『凄い人』のはずだけど。
生まれたときから見慣れてるあたいにとって、父ちゃんの存在の大きさを認識するのは、こんな時。
あとは宇宙語喋ってるとき、とかかな。
何と言っても、清四郎が話せないような言葉まで覚えてるもんな。
たまの拍子に清四郎が「おまえのおじさんには叶わない」と零すけど。
……本当に、そうなのかも。
「おや、珍しいものを見ていますね、悠理」
不意に声をかけられて、心臓が大きく跳ねる。
でも、声の主には思いっきり心当たりがあったので、とりあえずそっちを向くと。
声の主は、相変わらずの皮肉屋の笑みを浮かべ、あたいを見ていた。
「清四郎。いつ来たんだ?取次ぎもなしかよ」
「ついさっきです。ここに来るのは、もう顔パスですからね」
「そーだろーな。……ったく」
不意打ちで跳ねた心臓の、鼓動が段々収まってくるのを感じつつ、あたいは内線でお茶を頼む。
清四郎は、あたいが座ってたソファに腰掛けて、トーチを手に取った。
「オリンピックの聖火トーチ、ですね。どうしたんですか」
「父ちゃんのだって」
「おや……それはまた」
あたいの言葉に、清四郎は一瞬だけ目を見開いて、納得したような顔。
それから、薄く笑った。
「どうかした?」
「いや、さすがは剣菱のおじさんですな。ケンブリッジ留学だけでなく、様々な経験が豊富だ」
「だよなぁ……」
あたいの中での父ちゃんのイメージは、農作業姿だったり、ステテコだったりで、碌なモンじゃない。
なのに父ちゃんは、色んな勉強もしてて、こんな珍しい経験もしてて。
凄い人、なのかも。
「悠理」
「ん?」
清四郎が、手招きするので、近寄ると。
途端に不意打ち。
「!?」
あたいの体は、清四郎の腕の中に閉じ込められた。
「な、何だよっ!?」
ばたばたと両腕を振り回すけど、清四郎の腕の拘束が解かれる気配は皆無。
しかも、ますます強くなる感じで。
無駄に心臓の鼓動が跳ね上がるのは、気のせいじゃない。
すると頭上で、清四郎の大きな溜息がひとつ。
「……清四郎?」
声をかけると、清四郎は。
苦笑いをしてあたいを見詰め、それからぽつりと言った。
「全くもって、おじさんという人は、強敵ですね」
「へ?何の?」
意味がわからず、首を傾げるあたいの額に、ごく自然に清四郎の唇が降りて。
真っ赤に染まったあたいの背を撫でながら、清四郎が続けた。
「人間としての器、ですよ。剣菱に入るつもりなら……いずれ、対決せねばなりませんからね」
「対、決?」
「そうですよ。……僕が、おまえに相応しいって、認めていただくつもりですから」
意味を理解するまで、約10秒。
途端に全身から、火を噴きそうなほどに熱くなる。
「おまっ……!な、なぁに、こっ恥ずかしい台詞をっ……」
「───本心、ですよ。悠理」
清四郎は、すうっと目を細め、真剣な表情であたいを見詰めると。
こっちの手を取って、唇を寄せる。
視線の鋭さと妙な色っぽさにどきどきして、真っ赤になったあたいを見て。
清四郎は、破顔した。
*
頼むから。
そんな無茶苦茶真っ直ぐに、本心なんて告げないで。
嬉しいけれど、恥ずかしいから。
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。