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突発新作、悠理一人称です。
テーマ「御引越」って…そのまんまだ(汗)
ぐるり、見回す部屋の中。
ずっとここで、過ごしてたんだ。
時には家族や仲間たち、何より大事なタマやフクとも。
幼い頃から当たり前のものとして、与えられていた空間。
今日、さよなら。
『そして私は別れを告げる』
「嬢ちゃま、どうぞお体に気をつけて」
「うん、あんがと。五代もな」
「お嬢様、どうぞお達者で……」
さすがに感極まるものがあって、あたいもじいいん、なんて来て。
五代やメイドたちから涙交じりに見送られ、乗り込むのは名輪の運転する車。
いつものように見事な腕前で、リムジンが静かに走り始める。
更に、車の中だって。
「お嬢様、何かあればいつでもお呼び下さいませ。私はいつでも馳せ参じます」
「名輪……あんがと」
いつも落ち着いた調子の名輪の声が、ちょっとだけ掠れてて。
やっぱり、じいいんと来た。
「お嬢様、到着いたしました」
「うん。ありがとう、名輪」
「どうぞお達者で」
既に普段の仕事モードに戻った名輪と、笑顔で会話なんぞして。
目の前に立つ、高層マンションを見上げる。
一歩踏み出したところに、絶妙のタイミングでやって来たのは。
「早かったですな、悠理」
穏やかに笑みを湛える、清四郎。
「……ん。まあね」
あたいも一応笑顔を作ってみるけれど、自分の中でどっか違和感。
それは相手にとっても、同じだったようで。
「さて、まずは部屋へと参りましょうか」
さり気なくあたいの手を取り、腕を組ませてから足早に歩き始めて。
ひと目に立たないように、気遣ってくれた。
どこぞのホテルのフロントのような豪奢なフロアを抜け、エレベーターに乗り込んで。
最上階のフロアに到着すると、そこはもう玄関。
清四郎は扉を開けてあたいを中へと通すと、まずはリビングへと連れて行ってくれる。
うちの自宅と違って、清四郎の趣味を最優先した空間は、とっても落ち着けるインテリア。
すると、清四郎は腕を伸ばし、あたいをふわりと抱き締める。
直に聞く清四郎の鼓動と、お馴染みの温もりが、心地良くて目を閉じた。
「はい、お疲れ様でしたね、悠理」
「……何が」
「僕にまで隠す必要はありませんよ。ここは僕とお前の2人きりなんですからね」
だから、と清四郎は一呼吸置いて。
「案外寂しくなるものでしょ?今まで育った家を出る、っていうのは」
ああ、やっぱり清四郎にはお見通し。
「……ん……」
「お前がそれだけあの家の皆から、愛されてる証拠です。恥じる必要も、隠す必要もないですよ」
清四郎は、あたいの頭をゆっくりと優しく撫でながら、言葉を続ける。
「そ、かな……」
「ええ。だから、寂しいなら泣いておきなさい。見られたくないなら、くっついていればいい」
「……う、ん……っ」
無理に笑わず、自分らしく。
最後は、素直に。
あたいは、清四郎の胸に縋って、思いっきり涙を流した。
*
今日、自分の家の自分の部屋にさよならして。
新しく清四郎と作る、自分の家にこんにちは。
悲しいけど、嬉しい日だから。
これで、泣くのにも、さよならしよう。
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。