[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
イメージした香水は、エラドフランスの「スカイプラネット」です。一度も商品名出してないですが(苦笑)
何気にできちゃってる設定だったり、清四郎が暴走しそうだったりしていますが、お気になさらず…。
抱きとめたとき、一瞬優しく香ったのは。
気のせいではなく。
『移り香』
僕の恋人は、昔から化粧っ気がない。
それを不満に思う反面、このままでいて欲しいと思う自分がいるというのも、滑稽ながら本当だ。
女性らしい輝き増す彼女を見たいと思う反面、自分以外の何者にも見せたくはないという独占欲。
僕という人間の、人並み外れた執着心のようなものを思わせて、自嘲の笑みが漏れた。
しかしある時、商用で訪れた先で見つけたものに、たまらなく心惹かれた。
*
後日、久し振りに会う事となった。
「悠理!」
「清四郎、こっち!」
5分遅れで駆けつけた、待ち合わせ場所のオープンカフェ。
遠目にも目立つ色素の薄い髪を探し、声をかけると、手を上げて答えてくれた。
「すみませんでしたね、出掛けに急な電話が入ってしまって」
「別に謝んなよ、お前のせいじゃないだろ。フランス出張お疲れ」
既にカフェラテを頼んでいた悠理は、向かいに座る僕へ向かってにっこり微笑んだ。
ふとその視線が、僕の手にしていたものに釘付けとなる。
「それ、何?」
「ああ、そうだ」
僕は持っていた紙袋を、興味深そうに見つめる悠理の目の前に置いた。
「大したものじゃありませんが、土産です。お前に似合うと思ったんですが」
「へぇー、珍しいなぁ。サンキュー!」
悠理は満面の笑みで受け取ると、開けていい?と早速尋ねてきて、僕は頷く。
その時ちょうど、彼女の飲み物が運ばれてきたので、僕は自分のための追加オーダー。
この間に、彼女は小さな箱を存外器用に開いていた。
「……うわ、綺麗!これ、香水だろ」
歓声を上げた先にあるのは、水色の液体で満たされた小型の地球儀。
「面白い形でしょう?香水瓶としてだけではなく、飾っておくにも適していると思います」
「ホントだなー、ありがと清四郎!んで、何で香水?」
首を傾げる悠理に向かって、僕は曖昧に笑顔を見せた。
共に歩いて、食事などして、一杯やりつつ語らって。
僕たちが最後に辿り着いたのは、シティホテルのダブルルーム。
甘い吐息や艶やかな嬌声、感極まって流れる涙まで、余すところなく味わい尽くし。
狂乱の後に訪れる気だるい幸福感に満たされつつ、僕は恋人を抱き締めていた。
「………なぁ、清四郎?」
絶えず声を上げさせていたためか、やや掠れてしまった感のある悠理の声が、僕の意識を浮上させた。
まどろみを求める意識と戦い、片手で細い体を抱き寄せる。
「どうしました?」
「さっき聞いたとき教えてくんなかったけど……マジで、何で香水なの?土産」
「おや、まだ気になっていたんですか」
腕の中で自分に寄り添う悠理は、じっとこちらを見つめている。
水晶の如く光を放つその瞳は、例えようもなく美しいと、今更ながらに思う。
「そうですね。言うなれば……僕の、独占欲でしょうか」
囁きながら顔を寄せていくと、自然と察知して目を閉じてしまうのが、嬉しくもあり惜しくもある。
それでも甘い唇を堪能してから、種明し。
「僕の好みの香りだったんですよ、あれ」
「……そんだけ?」
思い切り眉を顰め、不審そうな様子を露わにする表情に、苦笑。
自分と言う人間が日頃どのように思われているか、察することができて。
しかも、それは的を得ていたので。
僕は「正解を教えますよ」と言うと、悠理から体を離してベッドから出た。
そのまま室内を横切り、荷物と共に部屋の傍らに置かれていた、件の紙袋を持って戻る。
彼女が見守る目の前で箱を再び開き、香水瓶を取り出して。
「悠理、ちょっと手を出して下さい」
「へ?あ、うん」
言われるままに素直に手を差し出してくれた恋人に微笑むと、その手首に中身をひと吹き。
「わ!?……へぇ、何か……落ち着くな、これ」
「でしょう?」
香りに納得し、頬が緩んだ悠理に笑顔で答えると、自分の手首にもひと吹きした。
「ユニセックスだという話ですしね、僕がつけても違和感はないでしょ、これなら」
「あー、確かにそうかも。でもお前って、そんな頻繁にコロン使ってたっけ?」
「いいえ、たまにですけどね」
悠理の案外鋭い指摘には、すまし顔で答えて。
僕は彼女に、やや子供じみた感のある購入理由を説明した。
「悠理。今度剣菱関連のパーティーがあったでしょう?その時必ず、これをつけて下さいね」
「いいけどさ……何で?」
今だ首を傾げる可愛らしい恋人の頬に、唇を寄せてから、正解を教える。
間違いなく、彼女が全身桃色に染まるであろうと推測しながら。
「移り香よりも、香水を揃えるほうが、他の男に対して牽制になりますからね」
*
後日、剣菱関連のパーティー開催の日。
勝手知ったる剣菱邸の門を潜った僕は、当然ながら今宵のパートナーである悠理待ち。
(さて、今日は約束を守ってくれるかどうか……)
ぼんやりとそんな事を考えつつ、勧められるまま紅茶を口にしていた僕を、呼ぶ声。
「清四郎、お待たせ」
声の方向へ振り向いて、不覚にも一瞬固まってしまった。
派手な色彩を好む悠理が身に纏うには珍しい、ターコイズブルーの品の良いイブニングドレス。
髪はがっちりアップで纏められ、アクセサリーは真珠で統一されているようだ。
奔放さではなく、清楚さが協調された装い。
「……何だよ、そんな変か?」
まじまじと見つめていたのが気に入らないのか、悠理が憮然とした表情で僕を睨む。
僕は慌てず落ち着いて、彼女へにこりと笑いかけた。
「逆です。とても良く似合いますよ、綺麗です」
「………わかった………」
相変わらず自分の容姿に対する賛辞を面映く思う、初心な所が本当に可愛らしいと思った。
そんな悠理へさっと近付き、軽く引き寄せ抱き止める。
「わ!?」
突然の抱擁に驚く彼女が動いた拍子に、ぱあっと強く立った香りは、あの日のもの。
「約束も、ちゃんと守ってくれたようですね。ドレスの色も合わせてくれたんですか?」
「……うん」
図星を指され、俯くその耳も項も真っ赤に染まり、出来ることならこのままベッドへ連れ去りたい。
とは言え、まずは義務であるパーティーを何とかせねば、と思い直して。
「では参りましょうか、悠理?」
僕は愛しい恋人の、肩を抱き寄せて微笑んだ。
無言で頷く悠理の頬は、相変わらず染まったまま。
恐らくこの状況ならば、揮発性の高い香水の香りは、より際立っている事と思われた。
僕の鼻が今ひとつ効かないのは、単に自分も同じものを身に着けたため。
きっとこれから、彼女は無意識にその香りで男を翻弄し、同時に警告するだろう。
それは僕が隣に立つ事によって、初めて成立する警告なのだけれど。
僕は、ささやかな独占欲が満たされる幸福感で、微笑んだ。
04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。