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先日久々に小噺を投稿いたしましたところ、思いがけずたくさんのコメントを頂戴いたしました!
放置がずっと続いていた最中にも、ご訪問下さっている方々がいらして下さった事は、本当に有難いです。
皆様に、深く感謝いたします。
で、不思議なもので、1作書くと次が続くとでも申しましょうか、ネタが浮かんでくるようでして。
以前アップした中で一番拍手が多かった(そして続きを!というご希望が多かった…)『エマージェンシー』、それっぽいものがなかなか書けずにいたのですが、いきなり書けました。
今ひとつラストがあれれ、という印象も拭えないのですが、これが私には精一杯でございます。
ということで、投下させていただきます。
長らくお待たせ致しました事、そして期待外れであろう事。
心からお詫び申し上げますとともに、ご容赦願います。
迷わず、彼女に電話をかけた。
『トリガー』
ひとりで呑む時だけ訪れる、とあるバー。
カウンターの左端から3番目、好んで掛ける席に今夜も腰を下ろして。
携帯を眺めつつ、溜息を落とす。
(……どうかしてますな、今夜は)
待受画面に表示された時刻は、既に午後の10時過ぎ。
本来このような時間、しかも相手は仮にも(生物学上は)女。
夜に2人で、ましてや飲みに誘うなど、通常有り得ない事ぐらい百も承知。
だけど今夜はどうしても、会いたくなった。
(原因は、何でしたっけ)
思考を巡らせても何も浮かんで来ない程に、些細で取るに足らない事だった。
今思えば、そんな程度の事だったように思う、が。
悠理の真っ直ぐで明るい笑顔に、会いたくて仕方なくなったのだ。
軽やかなアルトヴォイスが自分の名を呼び、万華鏡の如くくるくる変わる表情に。
この上ない安らぎを求めて、だからこそ、携帯を手にしたのだが。
(……そろそろ、ですかな)
さり気なく手元の腕時計をチェックし、待ち合わせたバーの入口に目を向けると。
絶妙のタイミングで、扉が音もなく開いた。
愛想笑いを作る間もなく、言葉を詰まらせ、硬直。
「……っ」
こちらへ歩いて来るのは確かに、自分の待ち人に違いなく。
力強い足取りも、こっちを見つめる視線の鋭さも、何も変わりはないというのに。
(何で、今日に限って、)
いつも周囲から浮きまくるような、奇抜なセンスの衣装が常の、彼女なのに。
今日に限っては、驚く程に店の雰囲気とマッチして、しかも人目を引く服装なのか。
光沢のあるピンクベージュのワンピースに、濃い茶のボレロを羽織って。
髪も緩めにアップにして、白い項が思いがけず晒される。
化粧はほとんどしていないが、申し訳程度のグロスがやたらと女性らしさを強調して。
仲間といろいろ画策する中で、変装するような必要でもなければ。
まずこのような服装をしないはずの、相手の変貌ぶりに、みっともない程動揺する。
「待たせたな。来たぞ」
「……ああ、すみませんでしたね、遅い時間に」
「別に。いーよ、予定入ってた訳じゃないから」
隣いーんだろ、と指差すところも、余計な媚びのないアルトヴォイスも、通常通りで。
ややぎこちない動きで頷きを返しながら、僕は必死に自分を落ち着けていた。
「それにしても珍しいですな、悠理がそのような姿で外出するとは」
彼女の好みのドリンクを注文してから、自然な口調を心がけて質してみると。
悠理は、子どものように口を尖らせつつ肩を竦めて。
「今日貰った母ちゃんの土産。たまにゃいいかな、と思って」
気紛れだよ気紛れ、とわざわざ言い添え、こちらに視線を合わせない。
良く見れば、目元がほんのり赤く染まっていて。
──まさか。
(僕の、ため?)
一度あらぬ期待を抱いてしまえば、もう高揚感が止まらない。
理性だけは人一倍ある方だと自負しているのに、何という体たらく。
それでも、こみ上げる嬉しさはどうにも隠しようがなくて。
「似合ってますよ」
「へ」
「その服。おばさんの見立てもさすがですが、ちゃんと着こなせてるじゃないですか」
「………………っ」
きっと顔がにやけているだろう、と諦念しながら言葉を吐いてみれば。
言葉を詰まらせ、眉間にぎゅっと皺を寄せた悠理の白い頬に、目に見えて朱が差した。
(こんな女性らしい表情、するんですねえ)
初めて目にするその可愛らしい様に、頬はだらしなく緩みっぱなしで。
悠理がさぞかし居心地悪く感じている、という事も、頭の中では理解している。
だが、それでも自分を抑える事はできない。
いいや、敢えてしない。
「これでも褒めてるつもりなんですよ、少しは嬉しそうにできませんかね?」
「う、うっさい。お前からそんな風に言われるなんて、嬉しいどころか恐いぐらいだ」
カウンターに頬杖をついて悠理にそんな言葉をかけると、彼女は困惑しきった表情。
喧嘩の修羅場は数多潜ったであろう少女も、こんな駆け引きは大の苦手であろうから。
恋愛沙汰にはとんと疎い自分であっても、リードも取れようというもの。
そう腹を据えたからには、もう、迷わない。
「失敬な。本心なんですがねえ」
戯れに、悠理の左手を取って、軽く唇を寄せながら告げてみれば。
想定外だったのだろう、彼女は首まで真っ赤になって、既に涙目。
「お、おまっ……な、なに、して」
肩が小刻みに震えている割りに、僕の手を強引に振り払う事をしないのは、店の雰囲気を慮っての気遣いか。
ならば、せいぜい利用させてもらうまで。
「悠理」
「な、なん、だ、よ」
「場所を、変えましょうか」
僕が唐突に提案した内容に、彼女は一瞬呆けたような表情になる。
ややあってから、首を傾げる少女のようなその仕草が、純真さを思わせて。
頭の中で策を巡らす己の腹黒さに、心の中で嘆息しつつも。
「慣れない店だと緊張するんでしょ?だから、場所を変えよう、というんです」
「……、そっか」
いつもの笑みで説明すると、何故か彼女の納得を得られたらしく。
表情から力みが消える様子に、釈然としないものを覚えつつも、頷いて。
「では行きましょうか」
さり気なくその手を取ったままで、悠理を席から立たせた。
「どこに?」
「愚問ですな。ここはホテルですよ。となれば部屋でも借りるのが妥当でしょう?」
他人の目がなくて、落ち着けますからね、と言い添えて。
素直に頷く悠理の無垢さには、不安すら覚える。
まあ、悠理をホテルに誘い込もうとする輩など、自分以外にいてたまるか、と。
確信めいた気持ちを抱いているのも、事実だが。
「実は今日は泊まる事にしていたので、部屋は押さえてあるんですよ」
「あー、そうなんだ」
「なかなか見晴らしがいい部屋なんですよ、夜景も」
「ふーん」
楽しみかも、何て無邪気な笑顔を見せる、悠理の手を握ったままで。
僕はゆっくり、部屋までの道のりを辿りつつ。
どうやって彼女を口説き落とそうか、と思案を巡らせていた。
*
今宵、引き金を引くのは、僕。
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。