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悠理一人称、無自覚な2人のひとコマ的な突発文です。
突発の割には続きがありそうな余韻が残りまくっております(汗)
※6/29 内容一部手直ししています。ご了承下さい。
最初に借りたのは、確か、今日みたいな雨の日。
理由なんて忘れたけれど、ひどく落ち込んでいた日。
『貸借契約』
週末の夜、雨の中を予告もなしに、一人でやって来た客。
とは言っても、常日頃から互いの家に頻繁に出入りする関係だったから、別段怪しまれる事もなく。
奴はしっかりうちの風呂まで使って、あたいの向かいに腰掛けて、アイスオーレなんて啜ってた。
「お前さ、何だよ?急に」
「おや、用がなければ来てはいけなかったですか?」
片眉を上げて、普段通りに清四郎は、にやりと笑う。
「どうせお前とは、卒業まで勉強を見る約束ですからね。本当なら、一年365日ずっと勉強しても足りないぐらいなんですから、いつ来ても問題はないでしょ」
「んぐ……」
痛い所を突かれて、ぐうの音も出やしない。
思わず言葉につまるあたいを見て、奴は吐息だけで笑うと、立ち上がる。
「……ま、とりあえず、僕も暇な身じゃないですからね。用件を済ませましょうか」
「は?」
あたいの頭の中を舞い踊る疑問符の存在なんか、端っからシカトして。
清四郎は、あたいの隣に腰掛けると、じっとこっちを見つめる。
やけに真剣な目をしてるのが怖くて、あたいは思わずその目を睨み上げ、互いの視線が交差する。
すると清四郎が、ふっと表情を和らげて、何だか悲しげな瞳になった。
(え?)
どうしてそんな表情をされるんだか、理由がさっぱりわからなくて、軽くあたいはパニック状態。
と、思ったのも束の間。
ぐい、と。
唐突に肩に腕を回されて、思い切り引き寄せられた。
「……!?」
気がつけば、がっちりと清四郎の両腕に拘束され、頭を胸に押し付けられて、身動きが取れない自分。
入浴の後の体からは、ボディーソープの香りがほんわか漂ってて。
自分よりも少し温い感じの体温が、心地良くすら感じられて、不思議。
でも、今のこの体制は、周囲から見ればどう見ても、抱き締められてる状態。
なぜ、どうして、突然こんな事に?
───人間、気が動転すると、まともに声を出すどころか、身動きできなくなるもんだ、と。
初めて思い知らされた、瞬間だった。
「───悠理、ひとつ提案があるんですが」
胸に顔をくっつけてるせいで、清四郎の声が、振動みたいに直に伝わってくる。
「……何?」
腕の中から見上げると、清四郎は、片手でゆっくりとあたいの頭を撫でながら、言葉を続ける。
「僕の胸、借りませんか?」
「───はぁぁ!?」
突拍子もない言葉の意味を理解しようと、思考を巡らせること、約3分。
しかしやっぱり意味がわからず、あたいは思いっきり声を上げる。
そんなあたいの動揺なんぞ、予測の範囲内だったのか、清四郎は淡々と続きを話す。
「僕の前ぐらい、我慢しないでもらいたいんですよ。泣きたいぐらい落ち込んでいる時は」
「!!」
痛い所を突かれ、思わずびくりと身を竦ませてしまう。
それを肯定だと受け取ったらしく、清四郎は腕の力を更に強めて、言葉を続けた。
「お前は昔から、泣き虫の割に意地っ張りだから、皆の前で素直に泣けないときもあるでしょう?」
だから、僕の前でぐらいは我慢をするな、と囁かれ。
ついでに優しく、頭まで撫でられてしまっては、あたいの涙腺もお手上げで。
「ほら、やっぱり」
「……っ、お、まえのせい、だろっ……。ばっか、やろ……」
「はい、はい」
清四郎の優しい声と、それ以上に温もりが、嬉しくて。
口惜しいぐらいにぼろぼろと、目から雫が絶え間なく溢れてくるのを、抑えることができなかった。
「落ち着きましたか?」
「……ん」
ひとしきり泣きじゃくった後は、目が腫れぼったいものの、気分がすっきりするもので。
あたいは漸く顔を上げ、清四郎に頷いてみた。
きっと、瞼が腫れてしまってとんでもない顔だったろうけど、どうやら合格点だったようで。
清四郎の腕の拘束は緩められたけれど、頭を撫でる手は、そのままだった。
奴は微かに笑みなんて浮かべ、あたいの顔を覗きこみながら、言葉を続けた。
「どうですか、悠理。僕の胸も、案外役に立つでしょう?借りておくと便利ですよ」
「お前さあ、何か変だよ、それ……」
清四郎の言葉がどうにも不可解で、あたいは思わず不満を述べる。
すると奴は、再び片眉をひくりと上げて、いかにも不快げな顔をして見せた。
「変、とは心外ですね。まあ、お前の言うことですからねぇ」
「その言い方、すっげ腹立つんだけど?」
「おや、そうですか」
あたいの苦言にも全く動じず、清四郎はなおもあたいを撫で続け。
その感触が心地良かったのは本当だから、あたいは表情を緩め、微笑んだ。
「……清四郎?」
「何ですか?」
見上げると、清四郎はまだ穏やかに笑みを湛え、あたいをじっと見つめてて。
その表情の温かさと、頭を撫でてくれる温もりが、心地良かったのは事実だから。
「お前の胸、借りとく」
一言だけ答えると、奴は更に笑みを深めた。
「では、契約成立ですね」
「ん……」
あたいも今度はほうっと息を吐いてから、目を閉じて。
そのまま、すうっと意識が遠のいていった。
*
清四郎が、そっとあたいの耳元で。
「───今度、しっかり契約料、いただきますからね」と。
囁いていたことは、知らないまま。
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。