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お題は『塊魂』…って、実は管理人PSP版は持ってません(爆)ごめんなさい。
触れ合えない存在、なのに。
『これも、彼の戦略。』
テスト明けの、日曜日。
彼女曰く、地獄の一週間が無事終わって、本日はまずまずの天候。
暇を持て余しているのでは、とメールのひとつも入れてみれば。
『今忙しい!またな』
人の事はあまり言えないが、無愛想この上ない返答。
……しかし。
僕は昨日の級友達との会話を、じっくりと頭の中でプレイバック。
(確か今日は魅録は別の用事が入っていたはずだから、ツーリングではないでしょうし……ふむ)
多忙であるとは、これ如何に?
*
自分も含め、倶楽部の連中が全員顔パスの、剣菱邸。
ずらりと居並ぶ使用人の出迎えにも、五代さんの丁寧な挨拶にも、すっかり慣れた。
「これは菊正宗様、ようこそお越し下さいました」
「突然申し訳ありません。あの、悠理は?」
「嬢ちゃまでしたらお部屋です。どうぞ、どうぞ」
広大な邸内の一角にある悠理の私室も、既に案内なしで通される程の信用度の高さに、内心複雑。
(これは信頼の高さと取るべきなのか、人畜無害の安全牌だと思われているのか、判断に迷いますな)
他愛もない事を考えつつ、悠理の部屋まで辿り着き、扉をノック。
「誰?」
「悠理、僕です」
「あ、清四郎?何だ、来てたの。入れよ」
部屋の主の緊張感がまるでない声がして、僕は遠慮なくノブを回す。
中へ入ると、相変わらずの派手な色彩の服を纏った悠理がにこやかに手を挙げていた。
「珍しいな、お前がアポなしで来るなんて。何かあった?兄ちゃんに用とか」
「いえ、用と言う程の事でもないんですけどね」
「ふぅーん。あ、コーヒーでいい?」
「ええ、いただきます」
悠理が内線でお茶を頼むのを目で追っていると、ふと彼女の手元にあったものに目が留まる。
やけにキラキラ輝きを放つそれを、じっと見つめた。
「あれ?何だよ、清四郎もこれ興味あんの?」
悠理が示した携帯用ゲーム機は、キラキラ輝く装飾用のラインストーンで片面が埋め尽くされていて。
こういう部分だけを見れば、悠理もやはり女性なんだと今更ながらに思う。
「いえ、まあ、そうですね。実際自分でプレイした事はないんですが」
「だよなぁ。お前が部屋ん中で地味ーにゲームしてる図って、想像できねぇもんなぁ」
「それを言うならお前もでしょう。どうしたんですか、急に?」
尋ねてみると、悠理は一瞬視線を彷徨わせてから、苦笑い。
「イヤ、その……ま、大した理由があるわけじゃないんだけどさ。何つーか、うん」
「?」
思わず首を傾げると、悠理は今夢中になっているというゲームについて、説明してくれた。
ルールは至って単純明快、キャラクターを操作して、大きな物体を創造するだけのゲーム。
悠理はこのキャラクターの立場に、心から同情しているのだと言った。
「何ていうかさ、こいつ、他人みたいに思えないんだよねぇ……」
「……成程」
説明書をざっと一読して、僕にもようやく納得がいった。
主人公となるキャラクターは、偉大な親を持つ、ちっぽけな存在。
親の失態の責任を取るため、遠い星から派遣され、命じられるままに日々物体を転がし続ける。
文句のひとつも言えないまま、ただ与えられた命令を黙々とこなす彼。
かつて、親の思いつきひとつで振り回され、結婚までさせられそうになった悠理自身と。
どこか共通するものが、あったのかもしれない。
……とはいえ、所詮はゲーム。相手は架空の存在だというのに。
(馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたが……。純粋と言うべきなのか否か、迷うところですな)
既に、隣にいる僕の存在は希薄になっているのか、悠理の視線は画面に釘付けで。
ひたすら指を動かして、画面の中のキャラクターを縦横無尽に走らせている。
彼女は至って真剣に、早くキャラクターを救ってやりたいと思っているのだろう、と。
自分の中で結論づけて、僕は持参してきた読み止しの文庫本片手に、悠理の様子を見守ることにした。
そのまま、気がつけば1時間程が経過したろうか。
悠理はふと顔を上げ、今まで失念していたであろう僕の存在に、改めて気づく。
「うっわ、ゴメン、清四郎!あたい、すっかりこっちに夢中になってた!」
「いや、別に構いませんよ?僕もそれなりに、有意義に過ごせましたからね」
彼女の謝罪に笑顔で答え、僕は文庫本を示して見せる。
……実際は、ゲームに集中する悠理の横顔の思わぬ綺麗さに目を奪われ、読書どころではなかったが。
「そっか?良かった……でもホント、ごめんな?」
悠理は珍しく恐縮しきりで、僕としてはむしろ有難くないため、話題を変えようと試みる。
「お前は別に悪くないですよ、悠理。僕も急に来たんですから」
「えー、でも」
「そんなに気になりますか?……では、こうしましょうか」
今だ俯き加減の悠理の頭を撫でつつ、僕は不意の思いつきを話してみた。
「ゲームも一段落ついたようですし、一緒にどこかへ行きますか?ちょうどいい天気ですから」
僕の提案に、悠理はしばし呆然としてから、ぱあっと瞳を輝かせ、にっこり笑顔で頷く。
「わかった!んじゃ、清四郎、どっか行きたい場所あんのか?あたい、どこでも付き合うよ」
「……おや、いいんですか?」
『どこでも』という言葉に少しだけ悪戯心が湧いて、念を押してみたけれど、悠理は即頷く。
「わかりましたよ、悠理」
(……さて。悠理をどこへ連れ出せば、良いものでしょうかねぇ……)
僕はにっこり笑みを浮かべると、行先について算段し始めた。
*
ゲームにすら同情する、あなたの感心を。
どうにか僕に、向けさせたくて。
CGにすら、ライバル視。
情けない程に、真剣な、僕。
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。