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暇人が開設した二次創作保管庫です。「二次創作」をご存知ない・嫌悪を覚える方は閲覧をご遠慮ください。漫画『有閑』の会長と運動部部長を推してます。
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こ、こんにちは。えーと、管理人の予想を超えてご反響を頂戴した『賃借契約 』の清四郎サイドな話、だったりするんですが……。
何か色々駄目なうえに終わってないです(爆)申し訳ありません!
後日続きをちまっと書いて、リベンジをっ…!

最初に貸したのは、忘れもしない、雨の日。
太陽が雲に隠れるように、貴女がひどく落ち込んでいた日。



 『占有権』



朝から雨が降っていて、僕や野梨子は勿論の事、車の送迎がある生徒以外は皆、傘持参で。
溢れんばかりの傘の花の中、今日も快活そうな悠理の声。
「野梨子、清四郎、おはよ!」
「おはようございます、悠理」
「おはようございます。今日は生憎のお天気ですわね」
「だよなぁ。参っちゃうよ、せっかく帰りに寄りたいトコあったのに」
声だけ聞けば、全く普段通りの遣り取りであるはずなのに。
どこかに感じる違和感は、気のせいか。

結局今日、悠理は部室へ顔を出さなかった。


   *


どうにも解せない感覚が、帰宅した後でもなお、僕の心に圧し掛かってきた。
別に何かを知っていたわけでもなく、単なる直感だけの問題なのだけれど。
不思議な事に、どうやっても尖った神経が納まらず、焦燥感だけが募って。
(……ここでうじうじ悩んでいても、仕方ないですな)
思い立ったが吉日と、簡単に支度して家を出た。
土砂降りの雨の中、辿り着いた剣菱邸で、下にも置かぬもてなしを受け。
風邪を召してはいけません、と何故か風呂まで使わせてもらい、温まった状態で悠理と面会。
「何だよ?急に」
明らかに不審顔の悠理を目の前にして、自室で悶々と悩んでいた自分はどこへやら。
いつもの通り不敵な笑みで、彼女の癇に障る言葉を口にしてしまって。
案の定言葉に詰まった彼女を見て、天邪鬼な言動の自分に対し、自嘲の笑いを漏らしてから。
僕は徐に席を立ち、悠理の隣へ移動した。
悠理は僕に、あからさまに警戒の色を浮かべていたけれど。
その表情すら、彼女が自分の落胆を誤魔化すための仮面に思えて、胸が痛んだ。


我ながら、大胆な行動を取ったと思う。
普段あれ程までに女性扱いせずにいた悠理を、あろうことか抱き締めたのだから。
(……やはり悠理も、女性ですね)
引き寄せてみて初めて理解した、その華奢な造りの身体は、突然の事に硬直していた。
敏捷さでは僕を凌ぐ力を持ち、決して並みの男には引けを取らぬ戦闘力を誇っているというのに。
その肩や首筋の細さも、掴んだ腕の柔らかな感触も、確実に女性ならではのもので。
思わずきつく抱き締めそうになってしまう自分を自制しつつ、悠理へと問いかけた。
「僕の胸、借りませんか?」と。
案の定、突拍子もない声を上げた彼女の動揺は、推し量るまでもない。
それでも僕は、どうしても言いたくて。
「僕の前でぐらいは我慢をするな」
諭すように、彼女へと囁きかけて、そっと頭を撫でてみると。
あっさり悠理は陥落し、壊れた蛇口のように溢れ出すのは、堪えていたであろう涙。
綺麗だけれど、見たくなかった姿。
自分がさせた行動であったはずなのに、その痛々しい姿に、ぎゅっと胸が詰まって。
抱き締める腕に力が込められたのは、必然。


涙混じりに、切れ切れに彼女が話した涙の理由は、確かに彼女以外には重大ではなかった事。
彼女が登下校の折に愛でていたという他人の家のペットが、臨終を迎えたという話で。
自家のものも含め、動植物へ深い愛情を注ぐ悠理ならではの落ち込みようは、痛いほどで。
大したことじゃなくてごめん、悪い、って何度も繰り返す唇を、そっと掌で覆った。
「お前にとって一大事だったんでしょう?謝る必要は、何もないですよ」
「……ごめん……」
「ほら、また謝ってる。いいんですよ、気遣いなんて不要ですから、今は思い切り泣きなさい」
「………ん」
両手でぎゅっと僕の手を握りしめ、更に涙を溢れさせる悠理は、本当に小さく見えて。
僕は彼女がしゃくりあげるのが納まるまで、ずっとその体を包み込んでいた。
ややあって落ち着いてから見せてくれた表情は、憑き物が落ちた後のようなすっきりしたもので。
安堵に口元が緩むのを自覚しつつ、腕の中に大人しく納まっている悠理の頭を撫でた。
そして、彼女から「お前の胸、借りとく」と、どこか照れを含んだぶっきら棒な返答を得た。
「では、契約成立ですね」
「ん……」
悠理が吐息混じりに頷き、僕の胸に身体を預けた状態で、目を閉じて。
その柔らかな重みが、段々と増してくる感覚を覚え、もう一度彼女を呼んだ。
「悠理?」
でも答えは返って来る事はなく、代わりに耳に届いたのは、静かな寝息。
(……眠ったんですか)
驚く程に華奢な身体を抱き上げて、ベッドまで搬送し、ゆっくりと横たえる。
規則正しい寝息に沿って胸が微かに上下する様に、漸く安堵の笑みが零れた。


「来て、正解だったようですね」
今はもう夢の中にいて、答えることなどできないのに、僕は悠理の寝顔にそっと問いかけて。
涙の跡を指で払い、僅かに乱れた髪を直して、息を吐いた。
常日頃から、驚く程に生命エネルギーに溢れている、太陽の化身のような悠理。
でもその輝くような笑顔の裏に、ひっそり隠れている事のある、華奢で無垢な少女の面影。
意地っ張りで泣き虫な、その素顔を晒す事も嫌う彼女の、言わば盾となるために。
自分の胸を貸す事ぐらい、何でもない。というか、そうしてやりたいと思う。
(保護欲……とでも言うのでしょうかね、これは)
唐突に自覚に至った感情に、多少の戸惑いは覚えるものの、今は別にそれでいいと理解して。
僕はそうっと耳元へ、眠る彼女には聞こえていない筈の、戯言めいた囁きを零す。
「───今度、しっかり契約料、いただきますからね」
ついでと言っては語弊が生じそうだけれど、微かに腫れて赤みを増した両瞼に、軽く唇を落とした。
明日にはまた、太陽に戻って、極上の笑顔を見せてくれるように、と祈りながら。


   *


僕が彼女に貸したのは、彼女が僕に無防備な泣き顔を晒すための場所。
僕にとっては、無防備な彼女を占有するための、それは特権。
契約料は、この腕の中にお前を捕まえる事でも良くて。
でも───何かが、足りなくて。

足りないものの正体は、またこの次に。

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» えへへ!
悠理の涙の理由は寂しいモノだったんですね。
「しずく」もそうですけど、清四郎はホントに悠理限定で鋭いですよねぇ。
次の日には悠理の輝く笑顔と、少し照れた顔に出会える様にと祈ってる清四郎が可愛いw
りん 2008/07/01(Tue)00:33:40 編集
» 無題
>りん様
いつもコメントありがとうございます!
悠理への気持ちを『保護欲』で片づけようとする鈍い清四郎ですが、次こそは自分の気持ちを自覚させたいです。
保護欲で瞼にキスはしないだろう普通!
M@管理人 2008/07/01(Tue)16:38:26 編集
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シスターM
性別:
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自己紹介:
国産ヒト型40代、夫・息子1人がいます。徒然なるまま…ではないですが、勢いに任せ、所謂二次創作をちまっと数年続けてます。
当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。
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