手が届くことの幸福感

極短、悠理一人称。
会いたいときにあなたがいない話ですが、甘めです。

　前は、平気だったのに。

 

　『手が届くことの幸福感』

 

寝起きの、最早無意識の行動。
大きく伸びをして、目を開ける。

今日は、何にもぶつからない。

　　　　＊

例えば、目を開けたとき視界を占領してる、やたらと綺麗な寝顔とか。
頭に当たる、硬いけど温かい、自分専用の枕とか。
寝呆けた意識を呼び起こす、呼吸を奪う行動とか。
再び眠りの世界へ戻ろうとするのを、引き寄せて妨げる腕の力とか。

いつの間にか、そんな束縛に、慣れっこになった。

だってそれは、強制じゃなくて。
自分が望んで、求めたものの先にあっただけ。
嬉しいことだったから。
それだけ。

 

だから、こんな日は、案外意識の浮上が早い。
ゆっくり上半身を起こして、目を閉じて。
今ここにいない男の面影を辿ってから、そっと呟く。

「……おはよ、清四郎」

言葉が返ってくるわけじゃないけど、何となく。
心の片隅で、何かが伝わってくれそうな気がして。

 

「……さってと、今日も一日頑張るぞ、っと！」

あたいは自分に気合いを入れて、勢い良く毛布を跳ね除けた。

　　　　＊

　心の中の、ほんの少しの寂しさを。
　埋められるのは、ひとりだけ。

　だから、それまで、頑張る。