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暇人が開設した二次創作保管庫です。「二次創作」をご存知ない・嫌悪を覚える方は閲覧をご遠慮ください。漫画『有閑』の会長と運動部部長を推してます。
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何となくシリーズ分けしてしまった『賃借契約』『占有権』の続編。完結編というか、ありがちなオチです。
どっか螺子の外れてる2人です(笑)

「さて、どうします?」
そう言って、あいつが笑った。

 

 『支払方法』

 

何だかわかんないまま借りた清四郎の胸の中、不思議に涙腺が緩みまくって、思いっきり泣いて。
結局あの日の翌日は、やけにすっきりと目覚めた。
そして、あの日以降。
やたらと清四郎の視線を感じる気がするのは、多分気のせいじゃない、気がする。
───だって。
「悠理、明日の午後、時間はありますか?」
いかにも普通の態度だったけど、清四郎の目は真剣そのもので、断る隙はなかったから。


   *


勉強会で何度も通い慣れた清四郎の家は、今日はやけに静かで、人気がない。
「今日って、おばちゃんいないの?」
「姉貴と京都旅行です。親父が学会で先週から不在な分、羽を伸ばすそうですよ」
「へー。あ、そだ、これ土産な。ウチのパティシエが作ったやつ」
「おや、それは有難いですね、ご馳走様です。紅茶でいいですか?」
「うん」
いつも通りに清四郎の部屋へ通されて、持参してきた土産のケーキをお茶請けに。
ただ普段であれば、これから奴の地獄の授業が始まるところだけれど、今日はその予定もなく。
正直、何の話があるのか、全く検討がつかなかった。
「どうぞ、悠理」
「ん、あんがと」
清四郎が淹れてくれた紅茶が、思いがけず美味しいなんてちらりと考えつつ、奴を見つめると。
さすがにあからさまな視線に気づいたようで、ん?と首を傾げられ、慌てて目を逸らした。
(やっぱし……無駄に綺麗だよなあ、清四郎って)
紅茶をごくりと飲んでから、考える。
人形みたいに綺麗な美童とは違うけど、精悍な男の顔をしてて、ちゃんと美形の部類。
しかも上背あって、胸板厚くて、文武両道で、モテる男の条件はとりあえず確保してる。
ただし性格だけは相当悪く、人としてかなり問題ありだとは、思うけど。
まあ自分的には、個人的に付き合うだの何だのが無関係であるため、どうでもいいけど。


……なんて、そんな要らんことを考えてたのは、あたいの失態だったかもしれない。
「悠理」
やけに近い位置で清四郎の声がした、と思ったときには、既に遅かったのだから。
「んえ……うわ!?」
「何ですか、その声は。僕は幽霊じゃないんですから、そんなに派手に驚かなくてもいいでしょう」
「い、いや、だ、だって!」
憮然とした清四郎の顔が見えるが、あたいの動揺の原因は、間違いなくこいつだ。
距離がやけに近い、近過ぎる。多分今、こいつの顔が目の前15cmくらいにあるはずだ。
確かテーブルを挟んで差し向かいで座ってたはずなのに、何で必要以上に距離を詰めてんのかが、わかんない。
しかも、思わず後ずさり、しようとしたら。
がし。
「な、何だよ!?」
「それはこちらの台詞ですよ。何故逃げるんですか」
清四郎は憮然とした表情のままで、あたいの手首をしっかりがっしり握って離さない。
もしかしたら背後には、怒りのオーラみたいのが、見えるのかもしんないけど。
でも。
「お前が怒ってるからだ!あたいだって、怖いもんぐらいあるわい!」
あたいは勇気を振り絞って、喚いてみる。
すると、清四郎の手首の拘束が緩んで、しめた!と思ったのはほんの一秒。
「!?」
次の瞬間、あろうことか、あたいは胴体ごと清四郎にがっしりホールドされていた。


どくん、どくん、どくん、と規則正しく清四郎の心臓が鳴ってる。
そんな響きと振動を、まさかこいつの胸から直に聴く経験をするなんて、考えた事もなかった。
(そういや、こないだはそんなもん気にしてなかったよなあ)
ふと、先日清四郎の胸を借りて泣きじゃくった記憶が、呼び起こされる。
あの時、自分は同じような状況にあったけれど、別に清四郎の心臓の音なんて聴いてなかった。
ただもう涙が溢れて止まらなくなって、そこで意識が途切れたんだから。
(……変なの)
他ならぬ清四郎と今こんな状態になってて、でも別に嫌悪感は感じないのが、また不思議だった。
人肌の温もりっていうのが、心地良いものなんだって、実感する。
(タマやフクを抱っこしてるときとは、違うんだよなぁ。何ていうのか……包まれてるってのかな)
背中に回ってる両腕の感触とか、呼吸で微かに上下する体の温度とか、全然違ってて。
思った以上に安らいで、落ち着いている自分に、ちょっとだけ驚く。
これって、変なのかもしれないけど、でも……間違いなく、嫌じゃない。
「清四郎?」
「何ですか?」
胸の中から見上げてみると、清四郎も別段変わったこともなく、落ち着いたもんで。
でも、いつもみたいな意地悪っぽい顔じゃなくて、優しそうな瞳であたいを見下ろしてた。
「あのさ、この間……ありがと」
「は?」
「ほら、あたい泣かせてもらっただろ、ここで。悪かったな」
それを言うと、清四郎はますます優しい瞳になって、微笑みすら浮かべ、首を振った。
「悪くなんかありませんよ。僕がお前に、ここを貸すって言ったんですからね」
清四郎がやけに自信ありげに断言したから、そんなもんかな、とあたいは頷く事にした。


「で、悠理。ものは相談なんですが」
「ん、何?」
何だかくっついてるのが気持ち良くって、あたいはさっきの体制のまま、清四郎の話を聞いた。
清四郎もこのままでいいのか、体制は変わってない。
「お前に胸を貸すのは全然構わないんですが……僕も、お願いがあるんですよ」
「お願いって、それあたいに?」
「ええ、勿論。お前にしか出来ない事だと思います」
「ふーん……」
あたいは首を傾げるが、清四郎の態度も言葉も至って冷静で、嘘ついてる風には見えない。
何よりも、あたいがこいつの胸を借りっ放しっていうのも、ちょっと気が引けてたから。
「あたいで出来ることなら、何でもいいよ。何?」
思い切って尋ねてみた。
すると清四郎は、ふむ、と頷いてから、あたいの目を真っ直ぐ見て、口を開く。
「悠理、僕とですね……その、付き合ってもらえますか」
「へ?どこに?」
聞き返すと、清四郎は苦笑い。
「どこに、という事ではないんですよ、悠理。所謂『男女交際』の事ですが、わかります?」
「………………へ!?」
清四郎の説明を聞いて、声が裏返ってしまった。
「ちょ、ちょい待ち!何でそーなる!?」
「何で、と言われましてもねぇ……。実際僕にも、理屈なんてわかりませんよ」
あたいの混乱を他所に、清四郎はやけに冷静な態度のままで、説明する。
「自慢にもなりませんが、僕もこの手の話題には疎いですからね。恋愛感情を抱くようになる過程を説明しろ、と言われても、出来るはずがありません。さすがにこういう事については、理論なんて関係ないんでしょうね」
「お前にも、わかんない事ってあんだなあ。意外」
「僕だって万能人じゃありませんからね。さすがにこの手の話題に疎くても、口惜しくはないです」
溜息をひとつついた清四郎の表情は、やけにさばさばしてて。
あたいは何となく、その態度が新鮮だと思った。


そして、ここに来て漸く、自分に与えられた提案について考え始めた。
「うーん……どうしよっかなあ」
「どうですか?何でしたら、返答は急がないですよ」
腕組みしたあたいの頭を撫でつつ、清四郎が言ってくれる。
「うん、あんがと。でもさあ、こういうのってあたいも経験ないけど、あんまし待たせるのも失礼だとか言わなかったっけ?可憐とか美童が」
「ふむ、そうかもしれませんな。あまり詳しく耳を傾けてはいませんでしたが」
「お前ってあいつらの話には、あんまり興味なさげだったもんなあ」
「痛い所を突かれましたな」
普段の口調で話し合ってみたりすると、それなりにあたいも落ち着いてきて。
目の前の問題について、足りない頭でも懸命に考えられる余裕が出てきた。
フツーの男女の付き合いってのを経験した事ないから、何だけど。
とりあえず、清四郎が相手っていうのは、嫌じゃないんだ。
「わかった、清四郎。あたい付き合ってみることにする」
「……いいんですか?」
「うん。お前が相手っていうの、嫌じゃないから」
やや不安げな口調の清四郎に頷いて見せると、奴の表情が安堵のものに変わった。
「では、これで契約成立ということにしましょうか」
「ん、了解。んで清四郎、あたい聞きたい事があんだけどさ」
「おや、何ですか?」
首を傾げる清四郎に、あたいは尋ねた。
「あたい、いつまでこうやってたらいいの?」
「え?ああ……」
そこまで言って、清四郎も納得。
何しろあたいは、さっきからずっと、清四郎に抱き締められたままだった。
「そうですね。僕は別に嫌じゃないんですがねえ」
「え、そうなの?」
「はい。悠理が嫌じゃないのなら、ずっとこのままでも構いませんよ」
清四郎の台詞が意外だったので、あたいはもう一度尋ねてみた。
「重くね?」
「ええ、全く。あれだけ食べてるのに、本当に軽いですな、お前は」
どこに栄養が行ってるんでしょうかねえ、なんて清四郎は思案顔で、言ってる言葉は本当っぽい。
「そっか」
「そうですよ。で、悠理。さて、どうします?」
清四郎が笑うから、あたいはにっこりと笑い返して答えた。
「んじゃ、も少しこのまんまがいい。温かくて気持ちいいから」


   *


今考えると、かなりお目出度い2人だけれど。
自分たちらしくて、まあいいや、って思える。
そして今も、清四郎の胸の中は、あたいの専用席状態。
「なあ、清四郎」
「何ですか、悠理」
「ここってさ、他に貸すあてってないわけ?」
あたいは清四郎の胸を指差して、聞いてみた。
すると奴は、片眉を上げてから答える。
「何を言うやら。今更でしょ、そんなのは」
「そうかな?」
「そうですよ。お前以外に貸すつもりはありませんよ、もうずっと」
そう言って、清四郎の腕の力が強くなって、あたいはぎゅうっと清四郎の胸に顔を押し付けられた。
「ちょ、清四郎、苦しいって」
「お前が馬鹿な事を言うからですよ。お仕置きです」
「馬鹿じゃないだろー、だってこれから、貸すあてができんだからな」
清四郎の言葉に、あたいは抗議してみた。
すると奴の腕の力が不意に緩んで、あたいを見下ろす。
「どういう意味ですか?」
首を傾げた相手に向かって、あたいはポケットに入れてあった物を取り出した。
「……ほれ」
「え………………ゆ、悠理!これは」
「今日貰ってきたからな。えと……今10週目だって」


ぴっかぴかの母子手帳を見て、清四郎が絶句。
鳩が豆鉄砲食らう、ってこんな感じなんだろうな、って。
あたいは清四郎の胸の中で、笑った。

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» きゃーっ!
まさか完結がニンシンとわっ!
結局行くとこイッチャッタんですねぇ♪笑
いや~こんな”おとぼけ”な2人ってカワイイわ。
清四郎の絶句した顔見てみたいわ~w
りん 2008/07/05(Sat)00:48:38 編集
» ありがちなオチです(苦笑)
>りん様
恐らくどっか螺子の外れたまんま結婚してるんですよ、この2人。幸せだからまあいっか、と周囲が呆れながらも祝福してくれそうです。
恋愛ムードは薄いんですが、こんな感じの清悠もアリだと思います。
コメントありがとうございました!
M@管理人 2008/07/05(Sat)11:41:31 編集
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自己紹介:
国産ヒト型40代、夫・息子1人がいます。徒然なるまま…ではないですが、勢いに任せ、所謂二次創作をちまっと数年続けてます。
当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。
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