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珍しく第三者的な視点から、という事で、豊作兄ちゃんから見た2人を書いてみました。
実際管理人には兄がいないので、かなりドリーム入ってますがどうぞお気になさらず…。
君が将来、誰の隣へ立ったとしても。
君は僕の、妹だから。
『僕の可愛い妹へ。』
珍しく定時で帰宅すると、これまた珍しく妹が出迎えてくれた。
と、いうよりは、折り良く妹が部屋から出てきていた、というのが正解だろう。
「あれ、兄ちゃん!?早かったね、お帰りー」
「ただいま、悠理」
微笑みかけて、頭を軽く撫でてやると、妹は嬉しそうに微笑み目を細める。
猫が甘える仕草にも似た、昔からのこの子の表情。
心の中が、ほっこりと暖まる感覚。
「兄ちゃん、これから出かけんの?夕飯、一緒に食える?」
「ああ。お前は今日は、夜遊びしないのかい?」
「うん。何だか久し振りだね、兄ちゃんと一緒に夕飯って。へへ」
僕が在宅するという事実に、妹の表情が目に見えて明るく輝く。
相変わらず淋しがり屋で、人なつっこい妹の、変わらぬ態度が嬉しい。
「あー、食った食ったぁ!」
「相変わらず凄い食欲だな、悠理は……お腹は大丈夫かい?」
「もっちろん!あんなの、全然余裕!」
妹は、その外見の細さとは全く違い、父似の豪胆な胃袋を持ち合わせている。
幼い頃からその食べっぷりは見慣れているので、微笑ましい限りではあるのだが。
一番の脅威は、あれだけ食べても増える気配のない、細いウェストかもしれない。
僕がいるためか、悠理も珍しく部屋へ戻る素振りを見せないため、コーヒー片手に話に付き合う。
久々に他愛もない話をして笑い合うのが、不思議と楽しくて。
僕はその時、ある事を思いついた。
「悠理」
「あに?兄ちゃん」
「今日は出掛ける予定もないんだったね。どうだい、これから2人で呑みに行こうか」
妹は、僕の言葉に一瞬目を大きく見開いて。
「行くー!」
満面の笑みと共に、万歳しながら叫んだ。
ポロシャツにチノパンという、ラフな服装にコットンのジャケットを引っ掛けて。
運転手に車を回してもらい、妹と2人で乗り込む。
思えばこれも、久々の事だなあ、なんて思ったりして。
隣の妹は、化粧もしていないのに頬を薔薇色に上気させ、上機嫌なのが伺えた。
「悠理、随分と珍しい格好だね。どうしたんだい?」
「母ちゃんのお土産。あたいはこんなん、自分じゃ買わないよ」
そう言ってにかっと笑う妹の、本日の服装は、ノースリーブのワンピース。
母が購入したにしては派手な装飾のない、すっきりしたデザインは、細身の彼女に似合っている。
父親似の髪は軽く撫で付けて、シンプルな白のイヤリングがきらりと輝いて。
踵が高い靴を嫌うこの子が好む、ローヒールのパンプスも、同系色。
兄馬鹿と言われても仕方ないが、とても魅力的に仕上がっていた。
「よく似合ってるよ」
「ほんと!?ありがと、兄ちゃん」
仲間と遊ぶには向いてないけど、兄ちゃんと出掛けるんなら合うかと思った、と言って笑う妹。
少しはにかんだ表情は、昔そのままのあどけなさがちらりと覗いて、微笑ましかった。
車を市街地の近くで停めて、少しの間並んで歩く。
よく通るアルトの声で快活に笑う悠理を見て、すれ違う男が振り返るのが面白い。
わが妹ながら、本当に綺麗になったものだとしみじみ思う。
「……兄ちゃん、どうかした?」
「ああ、何でもないよ悠理。さ、ここだ」
僕は首を傾げる妹に笑いかけてから、よく訪れるシティホテルの中のバーへ一緒に入って行った。
柔らかな照明と落ち着いたインテリアが、僕達を包み込む。
まだ時間が早めなためか、客は僕ら以外にはいなかった。
「いらっしゃいませ」
控えめな調子のバーテンダーの声に頷いて、僕はカウンターへ悠理を誘った。
「こんばんは」
「おや、今日はずいぶんと可愛らしいお連れがいらっしゃいますね、剣菱さん」
初老の域に差しかかった、柔和な雰囲気のマスターが、僕らを出迎えてくれた。
「妹なんですよ。悠理、こちらがマスターだ」
「こんばんは!……っと」
悠理はにっこりと挨拶してから、慌てて口を押さえた。
「どうした?」
「大声出しちゃったから。……何か、あたいって場違いかな。でもここ素敵だね、兄ちゃん」
「そうかい?気に入ってもらえたなら嬉しいよ」
年を重ね、それなりに周囲への気遣いも心得ができつつあるらしい、妹。
彼女の心底嬉しそうな顔を見て、僕の心は弾んでいた。
マスターお薦めのカクテルを片手に、悠理は笑顔でいろいろな話を始める。
僕はロックグラスを片手に、ずっと相槌を打っていた。
こんなに穏やかに妹と過ごすのは、本当に久し振りの事。
幼い頃は、多忙な両親の代わりに妹の面倒を看ていた分、いつも一緒だったけれど。
今や僕は社会人、妹も学校の友達とよく遊ぶようになったから、思ったより距離が開いていたようだ。
強がってはいても甘えん坊で、寂しがり屋の妹が、今も自分の隣にいてくれるのが嬉しい。
そのとき不意に悠理の携帯から、聴き覚えのあるメロディが流れた。
「兄ちゃん、ちょっとゴメン」
悠理は慌てて携帯を取り出し、店の入口へ小走りに走る。
(……清四郎君、だな)
今や剣菱の中枢の一角を担っているとも言える、彼。
かつての婚約騒動という経験を経て、今度は自発的に剣菱へと入り。
今ではその実力で、昔眉を顰めた周囲を、本格的に認めさせつつある。
そして、あの時は全く感じられなかった、悠理との本気の恋愛も。
(そういえば、今日は確か父さんから直々に、会合への出席を命令されていたはず……)
唐突に思い当たる、妹の在宅の原因に、苦笑。
今ここにいない父に対して、僕は心の中だけで文句を言った。
(父さん、娘の恋路を邪魔するなんて。馬だけじゃなく、母さんに蹴られても知りませんよ)
「お友達からの、お電話でしょうか?」
「きっとあの子の彼氏ですよ、とても妹を大事にしてくれていますからね」
「そうですか。幸せなことですね」
マスターに相槌を打ってから、悠理の方に視線を向けてみる。
バーの入口付近で話し込む後姿は、すっかり大人の女性。
(………)
訳もなく過ぎったのは、昔の記憶。
いつも僕の後を追いかけて、手を伸ばしてやれば嬉しそうに飛びついてきた悠理の笑顔。
少しだけ、切なくなった。
*
しばらくして、悠理が戻って来た。
「お待たせ!ゴメンね兄ちゃん、時間かかっちゃって」
「いいさ。清四郎君は、何か言ってたの?」
「え!?」
僕の問いかけに、悠理はまともに頬を紅潮させる。
「な、なな、何で……」
「さっきの着メロ、清四郎君専用だろ。わからないはず、ないじゃないか」
「………そっか」
真っ赤になって呟く妹の顔は、年よりも幼く、それでいて綺麗で。
ふと思い立って、僕は席を立った。
「ちょっとごめんな、悠理」
「ん」
トイレだとでも思ったのだろう、悠理は軽く手を振り僕を見送る。
彼女から死角へ入ると、自分の携帯を取り出し、用件のみの簡潔なメールを作成して送信。
ポケットに再度携帯を忍ばせて戻ると、ちょうど着席した頃に、バイブが反応する。
「何、兄ちゃんも電話?」
「───いや、メールだね。特に急ぎの用件ではないから、大丈夫」
内容を確認してから、画面を閉じた。
再び悠理との歓談に興じていると、背後から近付く人の気配。
「こんばんは」
発せられた声に、真っ先に反応したのは悠理。
「清四郎!?な、何で?」
「何で、と言われましても、ねぇ」
「僕が呼んだんだよ、悠理」
驚きで目を丸くした悠理と、穏やかに微笑む清四郎君を見て、僕が答えた。
気が動転した悠理はぽかんと口を開けているが、清四郎君は落ち着いたもの。
チェックのシャツにラフな印象のジャケットを羽織って、場の空気にも馴染んでいる。
そして、悠理を見詰める視線の温かさも、変わりない。
僕は笑みを深め、椅子から立ち上がった。
「さて、それじゃ、ここからは清四郎君にお任せしようかな。悠理、お先に」
「え!?」
「豊作さん?」
悠理と清四郎君が、共に驚きの表情を作るのが、何だか楽しい。
「悠理」
僕は妹の耳元に、こっそりと一言囁いた。
「………!」
悠理は言葉を失い、目に見えて真っ赤になった。
支払いを僕に回すよう頼んでから、店を出る。
ちらりと振り返ると、先程まで僕が掛けていた椅子に、清四郎君の姿。
悠理は未だに先程の紅潮を引き摺っているらしく、どこか動きがぎこちない。
何だか微笑ましい、ふたり。
(悠理を頼むよ、清四郎君)
心の中で呟くと、僕は携帯を取り出して、登録している短縮ダイヤルで車を呼ぶ。
「……さて、家で読書でもするか……」
妹との語らいも楽しいが、ここからは、あの子を恋人へ委ねてやろう。
兄として、応援してやりたいから。
*
どうか、幸せに。
永遠の、僕の可愛い妹へ。
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。