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同一タイトルながら、全く別の話です。
絡まって、解けない。
離れられなくなっていく。
『蜃気楼の鎖』
幼い頃から、ずっと視線で追い続けてきた、少女。
滑稽な程に鮮烈な、そして苦しい思いを残す、出会い。
あの出会いが、自分を変えてくれたというのに。
そして今、少女は驚く程に、成長を遂げ。
僕は今もあの時のように、手を伸ばせない。
───貴女に、触れることができない。
*
無自覚に想い続け、追いかけてきた、背中。
いつの間に、見下ろすようになっていたのだろう?
性別の割に背は高くとも、驚く程に手足は細く、華奢な体躯。
しかし生命エネルギーに溢れ、留まる事なく動き続ける活発な魂。
眩しい太陽のような、笑顔。
囚われたのは、自分。
テストも終わり、親しい友人達と打ち上げと称して集まるのも、すっかりお約束。
会場は、抜群の広さを誇る剣菱邸。
はしゃぐ彼女の細い髪は、跳ねるのに合わせてふわふわと舞う。
元来色白で、髪や瞳の色素も薄い彼女だからこそ、纏う衣装は華美なのだろうか。
それが思ったより様になっているのは、不思議な事だけれど。
「ねぇねぇ魅録、明日走りに行かないか?」
「明日かぁ?そうだな、久々にいいかもなあ」
「やっりぃ!」
自分よりも先に親しくなった男友達と、楽しげに笑う横顔を、しばし眺め。
誰にも気づかれないように、そっと息を吐いた。
宴が続く中、そっと抜け出して、豪奢な庭をそぞろ歩く。
主の趣味が反映された結果、カオスになっている感は否めないものの、手入れが行き届いた庭。
自分が大地を踏みしめる音だけが、響く。
「あれ、どしたの?」
不意に声をかけられ振り返ると、この屋敷の住人でもある彼女の姿。
「悠理こそ、どうしたんですか」
「あたいは酔い醒ましつーか、父ちゃんが乱入してきたから、逃げてきた」
今入ったら大変だぞ、と神妙な顔つきで僕へ忠告して、悠理が笑う。
太陽の元ではない笑顔は、色素の薄い彼女ならではの、儚さを漂わせて。
手を伸ばして、触れたいと、心がぐらり傾いた。
「清四郎」
「何ですか?」
「今日のテスト、珍しく半分以上わかった。おまえのおかげだよな、サンキュ」
「どういたしまして。卒業まで勉強を見るのは、約束ですからね」
うっすら頬を染め、素直な感謝の言葉を述べる彼女は、本当に綺麗で。
手を触れてはいけないような気に、させられて。
ちくりと胸を刺激する、切ない痛みを自覚する。
「どーかした?」
勘だけは鋭い悠理が、顔を覗き込もうとするのをうまく避けて。
僕は彼女へ、笑いかけた。
「悠理」
「ん?」
「明日は、魅録とお出かけですか」
先程耳に届いた話を向けてみると、悠理はしばし腕組みをして。
やがて残念そうに、肩をすくめた。
「駄目っぽいなあ。あいつ、さっき父ちゃんに捕まってたから、しこたま呑まされて、明日二日酔いだよ、きっと」
「それは気の毒に」
悠理の父親の、常人からはかけ離れた酒豪度の高さに思いを馳せて、呟くと。
その娘は、不意に大きく伸びをした。
「さーてと、そろそろあたいも宴会に戻ろっかな。父ちゃんの相手なんて、誰も務まんないもんね」
清四郎はどーする?と小動物のように、可愛らしく首を傾げられ。
僕はただもう、笑みを深めてしまう。
「そろそろ酔い潰れた人間の介抱も必要ですな、僕も戻りましょう」
「よっし、んじゃ、突撃っ!」
ぐい。
いきなり悠理が、僕の手を掴み、引っ張りながら歩き始める。
「ゆ、悠理!?」
「いちれんたくしょー!ってね、ホラ行こっ!」
僕の困惑など全く気にも留めず、悠理はずんずんと歩き出す。
うっかり今振り向かれでもしたら、きっと僕は、上気する頬を隠すことなどできないのに。
「悠理、そんなに引っ張らないでも大丈夫ですよ」
「駄目ー、しっかり歩くんだー!」
まだ酔いが残っているのか、からからと笑いながら、悠理は庭を歩いていて。
夜目にも白い肌と、思った以上に柔らかく華奢な手の感触に、僕の動悸は高まるばかりだった。
*
触れることなど叶わないものに、触れられて。
惑わされて、動けない。
もう、忍んでいられない。
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。