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今回書いて実感したのですが……野梨子は書くのが難しい(汗)清四郎とは幼馴染である分、いかようにも書けるんですね、彼女の場合。
あくまでも今回の文章は、私の中での野梨子のイメージですので、皆様が違和感を感じられる事もあろうかと思います。ご了承下さい。
4 晴れた喜び
「よっしゃ、晴れた!」
あの子が笑う。
*
薄曇の空の下、試験明けの週末を利用した、小旅行。
目的地は都心の近郊、剣菱家所有の別荘。このメンバーで旅をするのも、もう幾度目だろうか。
3列シートのレンタカーで、運転手には魅録。ナビ席は、最も雑談相手になれる悠理。
2列目は車窓から流れる景色を眺める私と、どんな時間でも知識の吸収に余念のない清四郎。
最後部には雑誌片手に流行を追う可憐と、彼女に上手に付き合う美童。
何となくだけれど、これが定位置。
あてどなく思いを馳せる私の思考を破ったのは、悠理の快活な声。
「野梨子、一つ食うか?」
「ええ、もちろんですわ、悠理。ご馳走様です」
悠理が助手席へ大量に持ち込んでいるおやつから、選び出されたお菓子の袋。
見れば、確かこの間可憐が話題としていた新発売の製品で。
「あら悠理!私もそれ食べたいわ」
「大丈夫、そっちの分もあっから。野梨子、悪いけどこれ回して」
「ええ」
早速目敏い可憐が声を上げ、悠理もにっこりと笑って新たな袋を出す。
私は悠理からそれを受け取り、可憐へ手渡した。
彼女だけではなく、美童までが声を上げ、反応する。
「僕もこれ初めてだよ。CM見て気にはなってたんだけどね」
「剣菱の製品じゃないわよね?悠理」
「まーね。でもここの社長、父ちゃんの知り合いなんだって。一昨日箱で届いたんだ」
「さすが、おじさんの付き合いは広いですな。悠理、僕にもいただけますか?」
「ん。ほい」
さり気なく加わった清四郎の要望に、悠理は何の抵抗もなく笑顔でお菓子をひとつ差し出して。
「ありがとうございます」
受け取る彼の笑顔は、とても嬉しそうなものだった。
───相変わらずですわね、清四郎。
心の中で、私は笑みを浮かべる。
常日頃から、他のみんなに「情緒障害」だの「薄情」だの言われている幼馴染。
物心つく前から一緒にいた自分でさえ、彼の意図は図りかねる場合があり。
掛け値なしに信頼できるのだけれど、計り知れない部分を持っている事も承知している。
ただ、そんな彼の鉄の仮面が見る影もなくなってしまうのが、彼女が絡む場合。
悠理達と付き合うようになってから、彼の初めてをたくさん目にした。
時には感情のままに声を荒げ、時にはお腹を抱えて爆笑し、時には完璧を以って旨とする彼の信条を打ち砕くような出来事さえ起きる。
幼い頃の悠理との出逢いが清四郎を変え、文武両道の信頼できる人へと成長させて。
今もまた、その清四郎があまり表面に出そうとしない感情を、容易く表へ出させてしまうのだから。
そして今、清四郎が抱く悠理への想いは、あまりに素直に溢れ出ていて、私は驚きを隠せない。
私ですら容易に気付いてしまっているのだから、他のみんなも承知しているのだろう。
悠理本人が気付かないのが、不思議で仕方ない程。
確かに悠理自身を見ていて、恋愛には程遠いようにも感じられるけれど、彼女は清四郎とは違う。
対象が家族であったり、ペットであったり、仲間であったとしても。
愛情を向ける事と向けられる事の喜びを、承知している人なのだから。
私はお菓子を食べ終えてから、悠理へ話しかける。
「悠理、おいしいですわね」
「だろ!あたいもこれ気に入ったんだよな」
「おい悠理、俺もひとつくれよ」
「あ、ほい」
はしゃぐ悠理に魅録が声をかけて、悠理は頷くと絶妙のタイミングで、その左手に菓子を渡す。
魅録も心得たもので、ハンドルを握る手は緩めずに、お菓子を器用に平らげて。
「………うん、美味いな。悪い、悠理」
「ん、ちょい待ち……ほら」
頷いて、もうひとつ催促し、受け取った。
まさに阿吽の呼吸、とでも言うのだろうか、その動作はとても自然。
お互いの事をよく分かり合っている分、相手の要望を察する事ができるのだろうか。
(まるで熟年夫婦のようですわよね)
そんな事を考えて、ふと隣の清四郎を見ると。
私は思わず、目を見開いて、うっかり声を上げそうになってしまった。
(……まあ!)
視線は本に向けていて、いつもの清四郎と全く変わりないというのに。
本を握る左手に力が入り、表紙が折れてしまっている。
書物をとても大切にする彼とは思えない、失策。
───本当に、わかりやすいですわ。相変わらずですわね、清四郎。
私は心の中で必死に、笑いを噛み殺した。
その時、不意に悠理が声を上げた。
「……よっしゃ、晴れた!」
窓の外では雲が切れ、光が差し込み始めており、悠理は窓ガラスに両手をつけ、瞳を輝かせていた。
次に突然後ろを向いて、清四郎に話しかける。
「なあなあ清四郎、これなら明日って晴れそうか?」
「そうですねえ……」
清四郎は思案げな顔で、外をちらりと見やると、にっこり笑う。
「多分心配ないと思いますよ。確か天気予報でも、今夜から晴れるという話でしたから」
「そしたらさ、明日の朝ってチャリで走れっかな?」
「ええ、恐らく」
「やったー!」
悠理はとても嬉しそうに、歓声を上げる。
清四郎はそんな彼女を微笑ましげな目で見つめ、次に尋ねる。
「レンタサイクルの手配はしたんですか?確か自転車は持参してないですよね」
「別荘に何台か置いてあっから大丈夫。お前も行く?」
「たまにはいいですな、自転車も。では、お付き合いしましょうか」
「おっし!負けねーぞ!」
「競争は必要ありませんよ、悠理」
子供っぽい悠理の提案に苦笑いしつつも、清四郎から溢れる嬉しさは誤魔化しようがなくて。
私は自然と、頬が緩んだ。
*
いつか。
いつか悠理にも、気付いて貰いたいと思う。
愛情を向けたり向けられたりの、人と人との心の遣り取りに関してだけは、驚く程無器用な人が。
やっぱり無器用に、でも真剣に、貴女を想っていることに。
いつも素顔を隠そうとしている人が。
貴女のような、晴れた日の太陽のような笑顔を、意識せずに浮かべられるように。
(お題配布元:空飛ぶ青い何か。様)
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。