[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
今回コメント等でも色々とお言葉をいただきまして、ラストは相当迷いましたが、結局悠理視点です。
ご期待に沿えたかどうかは…(汗)管理人の力では、ここまでが限界でございます。
話は微妙?に、4の続きっぽいですが、単独でも全く問題ございません。
5 笑わせてくれる友達
笑顔の理由は、やっぱり。
*
試験明けっていえば、やっぱり打ち上げ。
旅行を兼ねてやって来たウチの別荘で、宴会は珍しく12時過ぎにお開きにして。
次の日の早朝、快晴の空の下。
最近気に入ってるTシャツとホットパンツに、一応パーカーを引っ掛けて。
スポーツ飲料のボトルを相棒に、思いっきりチャリで爆走。
到着したのは、湖を見下ろす展望台。
チャリを停めてから思いっきり伸びをして、全身で酸素を取り入れる。
澄んだ空気が身体中を駆け巡る、感覚。
「んんー、最っ高!」
「さすが都会と違って、空気がいいですね」
「だよなあ、ホントに。やっぱ来て良かったなー。清四郎、付き合ってくれてあんがとな」
「いいえ、どういたしまして」
あたいの隣には、いつも通りの涼しい顔した清四郎の笑顔があった。
例の如く、夜の宴会ではあたいや魅録と一緒に、相当飲んでたはずの清四郎。
そして、昨日の行きの車の中で話したとおり。
「おはようございます。さ、行きましょうか」
着替えて部屋を出たあたいを、待ち構えていたのも清四郎。
……まあ、こいつがあの程度の酒で潰れてるのは有り得ない。
おまけに朝にも無茶苦茶強いので、いつも通りの顔してんのも別にいい。
更に、良く言えば英国紳士風(とウチの母ちゃんは褒めてたが)、要はオヤジ的センスな服ばっかのこいつが。
何を考えたのか、上はタンクトップにパーカー、下はハーフパンツ(ただし色使いは若くない)。
色々不思議はあったけど、とりあえずはサイクリングに集中して。
そして今、持参してきたドリンクのボトルを開けて、中身をごくり。
「……うっまい!やっぱ運動した後って、スポーツドリンクが一段と美味いよな!」
気分良く言ったあたいに、清四郎は苦笑いして、しっかりと苦言。
「まあ、それもあるでしょうが、単に呑んだ次の日だからでしょ」
「お前さ、せっかくの人の気分を壊すなよー」
「おや、それはすみませんでしたね」
あたいの不満にも、やっぱり片眉を上げて涼しい顔で返答する。
その様子は、いつもと全然変わらないけど。
でも、やっぱり。
「……なあ、清四郎?」
あたいはどうしても気になって、そっと口に出してみた。
「何ですか?」
清四郎の声はいつも通り冷静そのもの、でも、どこか優しく響くような気がした。
錯覚なのかもしれないけれど、その感覚があたいを後押しして、あたいは疑問をぶつけてみた。
「何で今朝、起きて待っててくれたんだ?」
「は?何を言うんですか。昨日約束したでしょう、『お付き合いしましょうか』って」
予想通り、清四郎は微かに眉間に皺寄せしてから、あっさりと言う。
確かにそれは、その通りなんだけど、ね。
「いやだって、昨日結構遅かったろ?あたいは今朝チャリに乗る気満々だったから、予定通りに起きたけどさ、別にお前まで、無理して付き合う事なかったんだぞ?だから……」
──だから、どうして?と、そう尋ねたかったのだけれど。
あたいは自分の身に起こった予想外の出来事に、言葉が続かなくなった。
今のあたいの視界にあるのは、清四郎の渋めな色のパーカーを羽織った肩で。
更に自分に密着してるのは、着痩せして見えるけど実は筋肉がかなりついてる、清四郎の胴体で。
ついでに、背中に奴の案外鍛えられた逞しい腕が、がっちりと回されていて。
確か手に持ってたはずのペットボトルが、地面にごろんと転がっていて。
──要は、清四郎に突然抱き締められている状態。
(………何で………?)
あまりの不意の事に対して、声にすらならない疑問が、頭の中でぐるぐる回る。
やたらと大きな鼓動の高鳴りは、自分のものなのか、相手のものなのか、わからなくて。
そもそも、何故清四郎がこんな行動に出たのかが、さっぱりわからなくて。
どうすればいいのかが全くわからず、あたいはただもう、清四郎の腕の中で放心状態。
すると。
「──悠理」
思わずびくり、と背を震わせてしまうほどに、清四郎の声が耳の近くに落とされた。
「……な、に?」
答えた自分の声は、自分でも聞いた事がない程に、掠れていたかもしれない。
「すみませんね、驚かせて」
「……え?」
「僕も正直、自分の取った行動に驚いているところですよ。まさか自分がこのように、衝動だけで動くなんて予想外でした」
ぎゅうっと抱き締められたままの体制で、清四郎の顔は見えないけれど。
声だけ聞くと、何か苦いものを含んだような、反省しているような音。
だけど抱擁する手は、緩められる気配はしなかった。
「……清四郎?」
あたいは思い切って、声をかける。
「何ですか?」
答える奴の言葉はさっきと同じだけれど、声の響きは全然違った。
今耳に届く清四郎の声は、冷静さなんて欠片もなくて、何か熱いぐらいの感情を含んでいて。
あたいの心臓が、音を立てて喧しくなったのを感じた。
「何で?」
「悠理」
「……何で急に、こんな風にする衝動なんて、起こるんだよ……?」
「──悠理……」
切羽詰った清四郎の声と、きつくなる拘束が、あたいを苦しめる。
心臓の音が苦しくて、意識が遠のいてしまいそうで。
気が遠くなるような時間が過ぎた、と思ったけれど、実際はほんの数秒ぐらいだったろうか。
清四郎の腕の力が、不意に緩む。
(え?)
思わず顔を上げると、有り得ない距離に清四郎のやたらと整った、真剣そのものの顔があって。
「せ……」
名前を呼ぼうとした唇が、相手のそれで塞がれた、と思ったときにはもう離れた。
「………………!」
思わず息を呑み、唇を手で抑えてしまう。
清四郎は、そんなあたいを見て苦笑いをひとつすると、もう一度あたいをぎゅうっと抱き締めて。
「──ごめん」
耳元に一言囁いてから、熱い吐息をひとつ。
それから、驚くような告白。
「悠理、僕は………………」
その言葉は、あたいをしばらく硬直させたけれど。
結局あたいは、清四郎に。
「ありがとな」って、笑顔で答えた。
清四郎は、あたいの答えを聞いてから、今まで見た事ないぐらいの笑顔を零して。
もう一度あたいを、ぎゅうっときつく抱き締めた。
*
初めての事だらけで、色んな気持ちになったけど。
笑顔の理由は、やっぱり貴方。
だって、嬉しいから。
(お題配布元:空飛ぶ青い何か。様)
05 | 2025/06 | 07 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
29 | 30 |
当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。