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暇人が開設した二次創作保管庫です。「二次創作」をご存知ない・嫌悪を覚える方は閲覧をご遠慮ください。漫画『有閑』の会長と運動部部長を推してます。
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現在拍手お礼文として載せている「風鈴」が思いのほか好評です。ありがとうございます。
そして複数の方から「あのカッコの清四郎と悠理を書いて下さい」的なお話をいただきました。
正直予想外でした(オイ)が、確かに面白そうだったので、書いてみました。清四郎一人称。

あまりにも、美しいから。
誰かが攫う前に。

 

『花攫い』

 

某月某日、甚だ不本意ながら、僕らは剣菱夫人の手によって確保された。

(まさかここまでやって来るとは……。僕としたことが、不覚を取りましたね)
やけに冷静になる僕の隣で、悠理は何とも言えない表情を作っていて、その思いは伺えない。
日頃感情表現があれ程豊かな彼女を、こうまで変えてしまうのは、やはりこの母の力なのか。
僕は、目の前でやたらと上機嫌にはしゃぐおばさんを眺め、首を傾げていた。
そんな僕らの様子になど構うことなく、おばさんはにっこりと、恐ろしい笑顔で告げる。
「清四郎ちゃん、今日こそはこっちのお庭にも寄ってね!勿論悠理もよ」
背後に巨大な蛇の幻影すら見え隠れするおばさんを相手にして、誰が否と言えようか。
僕は嫌々ながら、溜息を交えて頷いた。
「……わかりました。では、悠理の勉強がひと段落してから伺います」
「期待してるわよ。ああ、今日こそはフェルゼンがいるのね……!」
何故か高笑いしつつ去っていく、剣菱夫人を見送ってから、悠理に振り返って、驚く。
悠理は、物凄く不機嫌だった。

「……悠理。何故そこまで不機嫌なんですか?」
いくら無軌道な遊びをしでかすとはいえ、悠理にとっては大好きな実母であるはず。
首を傾げて尋ねてみると、悠理は頬を膨らませ、僕を睨みつけて言った。
「あたい絶対やだ!あの衣装重てえし、暑いんだぞ!しかも脚が痛い!」
「もしや靴のせいでは?サイズ調整をした方がいいですね」
とりあえず忠告をしてみると、彼女は僕を睨みつけたまま一度口篭り、それからとんでもない発言。
「大体お前さ、どうすんだ!?」
「は?」
「前に言ったよな、あたい!お前、フェルゼン役やらされんだかんな!ったく!」
悠理はここで一呼吸してから、一気にまくし立てる。
「フェルゼンって、アントワネットの男の名前だろ!アントワネットは母ちゃんだかんな!」
「………!?」
言葉の意味を悟って絶句した僕の背筋を、マッハスピードで悪寒が駆け抜けて行く。
(そういう事ですか……)
何故か頭痛を覚えるが、気のせいだと自分を誤魔化して。
携帯を取り出して、簡潔なメールを作成し送信。
「うまく行くといいんですがね」
「誰に送ったんだ?」
「まあ、言うなれば『奥の手』ですよ」
不安げに僕を見上げる悠理の頭を撫でつつ、僕は祈るような気持ちで携帯の画面を見つめていた。

 

 

「ご機嫌麗しゅうございます、王后陛下」
蕩けるような笑顔で微笑んだ男が、目の前に跪いて、手の甲へ忠誠の証の口付けをひとつ。
これぞまさに、ベルサイユの世界。
「ま……まあまあまあ、まあ!」
どこぞの資料で見た、宝石を縫い込んだドレスに、有り得ないような高さに結い上げられたカツラ。
いかにもマリー・アントワネット的な扮装をした剣菱夫人は、少女のように頬を染めた。

(……さすが……。見事ですな、美童)
自分で仕掛けておきながらも、思わず拍手を送りたい程の効果だった。
自称『世界の恋人』は伊達ではない、と唸らずにはいられない程の、極上スマイルと身のこなし。
笑えるぐらいにフリルで飾り立てられたシャツ、やたらと細い脚が際立つ上着とズボンを纏い。
更に自慢の金髪をウェーブさせて、それでも違和感皆無の美童に、拍手を送りたい。
僕の代わりに、フェルゼン伯役として差し出した美童のいでたちは、さながらオスカルだが。
その人形もかくや、という美貌と優美な物越しに、おばさんは釘付け。
「……すげーな、あいつ」
こちらも一応ドレスにカツラで、貴族の令嬢っぽくさせられた悠理が。
実母の気分を害しないよう気を遣ったのか、持たされた扇で口元を隠して呟く。
濃い目の緑を基調としたシンプルなドレスは、彼女の細いウェストをよく引き立てて。
飾り立てる事を嫌がる彼女に合わせ、化粧や宝石の類も最低限度に控えられてはいたのだが。
精悍な顔立ちを柔らかく見せるメイクと、細い首筋に映える薔薇色のネックレスは似合っていた。
「元々あいつが適役ですよ。顔立ちもそれっぽいし、気障な程の紳士っぷりはお手の物でしょ」
何とかおばさんの相手役は免除された僕も、小声で答えつつ、窮屈な襟を軽く引く。
相手役を回避できたとはいえ、結局美童とあまり変わらぬ服装をさせられているのは、事実。
更に、フェルゼン伯仕様だというモーツァルトの如きカツラは、案外軽いがとにかく不愉快。

しかし、意に沿わぬ芝居なんぞに付き合わされるよりは、ましというもの。
とりあえずは作戦成功と、僕は心の中で自分に合格点をつけた。
『今度のテストの予想問題集』を餌に、美童をおびき寄せたのだ。
ただ、そこに面白がって可憐や野梨子が乱入し、更に魅録まで引きずり込まれたのは、誤算だったが。
「でも、さすがおば様よねぇ。ここまでフランスっぽい世界を再現させちゃうんだから!」
気分はポンパドール夫人、とばかりに髪も優雅に縦ロール、豪奢な真紅のドレスを纏った可憐が笑う。
宝石の類まで贅沢に身に着けて、可憐としてはかなりご満悦らしい。
「本当ですわね。何だか中世のフランスにタイムスリップしたようで、面白いですわ」
可憐に同意する野梨子は、黒髪をきっちりカツラに纏め、濃いピンクのドレスで登場。
こちらもかなり豪奢に飾り立て、お淑やかに笑みなど浮かべている。
驚く事に、おばさんまでは行かずとも、彼女らにはこの『お遊び』は好評のようだった。
「プチ・トリアノンもほとんど資料どおりの出来栄えですわよ。見事なものですわ」
「……んで、何で俺まで呼び出されてんだよ……」
「いいじゃんか、案外魅録も悪い気してねーんだろ?」
悠理に痛い所を突かれ、魅録は赤くなって絶句。
実は魅録のみ貴族っぽい服装を拒否したのだが、代わりに、と差し出されたのが軍服で。
小道具のサーベルまで附属している精巧さに、うっかり彼もその気になってしまっていたのだ。
「魅録、何だったら乗馬でもすっか?その格好で」
「……勘弁してくれ」
悠理にからかわれ、苦虫を噛み潰したような顔になる魅録に、思わず微笑が漏れた。


   *


おばさんと一通り『ベルサイユごっこ』を終えた美童は、かなりご満悦だった。
「やっぱりフェルゼン伯のような貴族の役は、僕じゃないとね。清四郎じゃ役者不足だよ」
「まあ確かにねえ。冷血男の清四郎じゃ、フェルゼン伯のような情の深さは感じられないものねえ」
「可憐ったら、当たっておりますけれど、手厳しいですわよ。ねえ魅録?」
「まーな。とりあえず、今日俺がいる意味って、全然なかった気がすっけどな」
「フフ、でも滅多にない経験だったし、いいんじゃないの?」
おばさんが商用だとして中座した後、残された面々はお茶を片手に談笑。
テーブルには当時のままのレシピにより再現した、彩りも豊かな菓子類が所狭しと置かれていて。
優雅なひと時を過ごす、4人。

そして、誰からともなく顔を見合わせ、彼らが呟く。

「「「「清四郎……悠理を連れて逃げた(わ)ね……」」」」


   *


──そう。
僕は盛装した悠理を連れて、庭園の奥に退避済み。
慣れない靴に足が悲鳴を上げていた悠理を、堂々と抱きかかえ、手入れの行き届いた庭を歩いていた。
ここを抜ければ、彼女の部屋への近道があるというのが一番の理由だが。
(勝手知ったる剣菱邸、ですな)
心の中で苦笑いしつつ、大人しく抱き上げられたままの悠理を見つめる。
ドレス姿のままの悠理は、いつもより白く細い首筋が際立って、大変に魅力的。
本当ならば、このまま唇を寄せて感触を確かめたくもなるのだが、照れ屋の彼女のため我慢。
ここでは跡を誤魔化すことが、難しいから。
「悠理、まだ痛みますか」
「……平気。あのさ、あたい自分で歩く……よ」
困惑しつつも僕を気遣う態度と、何より上目遣いの表情が、僕の理性を打ち崩そうとしていて。
僕は密かに気合を入れ直し、悠理へ笑いかけた。
「無理をしては駄目ですよ。早く部屋に戻りましょうか」
「……ん」

悠理は足の痛みと、慣れない衣装による緊張と、僕の態度に対する照れで気が動転している。
真っ赤に染まった頬が、例えようもなく可愛らしい。
(ベルサイユであれば、庭園で愛を語るのが王道ですが……やはり悠理の部屋でしょうね)
悠理の滅多に見られない姿に満足しつつ、これからどうやって姫君を口説こうか、と。
僕は思考を巡らせつつ、庭園を突っ切って、彼女の部屋を目指した。

 

   *

 

攫った花は、僕だけのもの。
僕だけが愛でる、僕だけの、花。

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» 笑!
美童、まんまと乗せられて!
でも、やっぱりこーゆーのは美童のが似合ってる♪
そして、ちゃっかり逃げた清四郎は役得!爆
悠理たん、美味しく頂かれちゃったんでしょうねぇw
りん 2008/07/17(Thu)23:45:12 編集
» 策士は健在(笑)
>りん様
美童は完全に自分に酔ってますね。
清四郎は…確かにしっかり姫君ゲットしてますからね?きっと悠理は丁寧に戴かれた筈です。
…丁寧って何だ(爆)

コメントありがとうございました!
M@管理人 2008/07/18(Fri)00:38:09 編集
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国産ヒト型40代、夫・息子1人がいます。徒然なるまま…ではないですが、勢いに任せ、所謂二次創作をちまっと数年続けてます。
当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。
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