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迫力のある悠理を書いてみたかっただけの一作です(爆)すみませんすみません。
所謂『結婚=結婚式』では、ないけれど。
何故か、周囲からいろいろ注文をつけられて。
新たな人生の準備とは、かくも憂鬱なものなのか。
『マリッジブルー・彼女の場合』
(……全く、懲りない人達ですよねぇ)
広大な剣菱邸の、豪奢な一室において、僕が抱いた率直な感想。
目の前では、剣菱会長と会長夫人が、愛娘の結婚披露宴に係る演出方法について、大激論中。
我が家の両親は「我関せず」と大人の立場に立ち──平たく言えば丸投げして、この場は不在。
まあ、この夫妻と口論するのは時に命懸けとなりかねないため、わが親ながら賢明な判断だと思うが。
それにしても、以前も同様の件で衆人の目の前での大口論を演じた結果、すわ離婚か、と逸るマスコミ関係者らに対して報道規制を強いる羽目になったというのに。
本当に、懲りない人達である。
しかも会長は病気療養明けの身。
これだけ元気があるのなら、むしろ会長業務を優先させていただきたい、と剣菱の一社員としては激しく思わないでもない。
今ここに同席し、苦虫を噛み潰したような表情の豊作さんも同様の心境だろうが、彼を以ってしても2人を止めるのは至難の業。
それは僕にもいえることで、奥の手(=雲海和尚)を招聘すべきかどうか、一度ならず考えた。
しかしここで、思わぬ大逆転劇。
「父ちゃんも母ちゃんも、いい加減にしてくれよ!」
今の今までさながら石のように固まっていたのに、それまでの沈黙を破り、凄まじく冷たいオーラを纏って夫妻を一喝したのは、他ならぬ彼らの愛娘。
いつものような天真爛漫な笑顔など欠片も見せず、怨霊もかくやという迫力で、あの両名を即座に沈黙させるという離れ業をやってのけた。
父譲りのバイタリティーと母譲りの美貌を併せ持つ彼女が、本気で怒るとこうなるものか、と密かに感心。
まあ豊作さんなどは、可愛い妹のブチ切れっぷりに蒼白だったが。
ともかく悠理は、きっぱりと言い放った。
「もううんざりだよ!これ以上無駄な言い争いしてるつもりなら、あたい、今からでも結婚やめて、出て行くからな!」
*
豊作さんと2人、先程の悠理の行動について率直に述べると、途端に彼女は表情を曇らせた。
「驚きましたよ、悠理」
「僕もだよ。まさかお前があんな風に、2人を止める事ができるなんてなあ」
「……それ、褒められてんのかよ、あたい」
悠理の激しい一喝に、すっかり毒気を抜かれた夫妻をその場に残し、僕と悠理と豊作さんは退場。
そのまま豊作さんの部屋に伺って、3人で一服していた。
「世間一般の結婚ってのも、こんだけ苦労するのかなあ?あたい初めてだから、わかんないけどさ」
「どうなんだろうね。まあ、父さんや母さんの我侭は、今に始まったことじゃないからね」
「……まあなあ」
何を思い出したのか、悠理は眉を潜めたままでソファに背を凭せ掛け、天井を仰ぐ。
深い溜息は、彼女の苦悩をよく表していた。
「とりあえず、会長夫妻のご要望は先程十分伺えましたからね。一度専門のプランナーにプランニングして貰ってから、お2人に再度検討して貰えばいいと思いますよ」
僕は先程の2人の激論を全て録音したICレコーダーを示して、にこっと笑う。
「内容を起こしてデータ化するのに1日下さい。プランニングは2日もあれば大丈夫でしょう」
「さすが清四郎君!抜け目ないねえ」
豊作さんが、心底感心した様子で頷く。
悠理はきょとんとしていたが、やがて済まなさそうに、ポツリと漏らした。
「いっつも悪いな、清四郎」
悠理らしくない弱気な態度と、何よりその笑顔はほろ苦くて、僕は思わず手を伸ばす。
「今更そんな言葉は不要ですよ、悠理。僕とお前の仲でしょ?」
頭を軽く撫でてやると、悠理は少しだけ笑みを深め、頷く。
その笑顔に釣られるように、僕も無意識に笑みを浮かべた、その時。
「……あー、お前たち。仲良くするのは結構だけど、できれば自分の部屋でやってくれるかな?」
遠慮がちに、でもはっきりした声色でかけられた、豊作さんの台詞に、はっとして。
「あ、に、兄ちゃん、あたいこれで!お茶、ごちそーさん!」
「……では、僕も早速データ作成にかかります」
僕等は慌て気味に、豊作さんの部屋を辞した。
「……兄ちゃん、変に気、使ってたよな」
「そうですねぇ……。まあ、当然の事なのでしょうね、僕等は一応婚約中の間柄ですし」
「まあなあ。普通なら、色んな場所でいちゃついたりしてるんだろうしなあ」
「所謂恋愛中のカップルなら、そうでしょうね。僕等の場合は違いますけれど」
二人並んで神妙な顔つきで、膝を突き合わせてる姿は、世間が言うところの『熱愛カップル』とは、程遠い光景。
実際に僕も悠理も、恋だの愛だのなんて感情とは無縁で今までやって来て。
結婚を控えた今でもお互いに、相手に対して甘い感情を抱くような事態には、全くなっていない。
「まあ、とりあえずは目の前の問題の解決ですな。僕はデータ作成にかかりますよ」
「ん。……あ、いっけねぇ!こんな時間じゃんか」
悠理は室内の時計に目を留めると、急に高い声を上げて、慌て始めた。
「ああ、そういえば今日は、エステの日でしたっけ?ご苦労な事ですな」
「あたいが頼んだんじゃないやい!母ちゃんが勝手に決めちゃったんだ」
名輪待たせないようにしないと、と急ぎ悠理は準備を始めた。
彼女の母の鶴の一声で、今悠理は週1回のエステサロン通いを義務付けられている。
とことん嫌そうな溜息をついた彼女に、僕は唐突に閃いた提案を告げた。
「悠理、たまには僕がエステサロンまで送りましょうか」
「え?でもお前、さっきの会話のデータ化するから忙しいだろ。いいよ、名輪に頼んでるし」
悠理は慌てて断るが、僕は笑顔で首を振る。
「この程度の作業なら、30分もあれば余裕ですよ。ある程度はソフトに任せますしね」
急に予定を変更してしまったにも拘らず、名輪は僕の車を既に準備していてくれた。
「清四郎様、お車の用意は完了しております。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「すみませんね、名輪。予定を勝手に変えてしまって」
「そんな事はお気になさらず。たまにはお2人で、ごゆるりとお出掛け下さい」
「あんがと名輪。んじゃ、行ってきます」
急な予定変更にも全く動じず、笑顔で頭を下げる名輪に見送られ、僕は車を発進させる。
助手席では、きっちりシートベルトを締めた悠理が、どこか憂い顔で大人しい。
「どうしました?僕の運転では心許ないですか?」
声をかけると、途端に悠理は弾かれたように顔を上げ、ぶんぶんっと激しく首を振った。
「んなわけないじゃん、お前、教習所の教官並みにめっちゃ安全運転だもん」
「……それはどうも」
悠理らしい微妙なコメントだ、と心の中で思いつつ、僕は一応礼を述べる。
休日の午後ではあるが、車の流れは思いの他スムーズで、目的地にはあっと言う間に到着した。
「悠理、着きましたよ」
「わかってる。ありがとな、清四郎」
「どういたしまして。終わったらメールでも入れて下さい、迎えに来ますから」
「え、でも」
悠理は僕の言葉にまた、視線を彷徨わせている。
相変わらずの要らぬ気遣いが、嬉しくも腹立たしくて、僕はいつものように彼女の頭を撫でた。
「作業は大丈夫だと言ったでしょ?どうせあんなもの、今日中のノルマなんてないんですから」
「……じゃ、頼む」
「それでいいんです。婚約者の好意には、素直に甘えるべきですよ」
「………っ、バーカ」
冗談っぽく付け加えると、悠理は軽く吹き出して、やっと笑顔を見せてくれて。
僕もまた、無意識に笑みを浮かべていた。
「じゃ、悠理、後で。行ってらっしゃい」
「ん。行ってきまーす」
悠理は僕に手を振ってから、軽い足取りでエステサロンがあるビルへと入っていき。
僕は車を発進させて、家路を辿りつつ思考を巡らせていた。
先程の憂い顔の原因は、やはり両親との諍いだろうか、と見当をつける。
笑顔を見せてくれはしたが、うっかりするとストレスを溜め込みがちな婚約者のケアは、自分の役目。
(悠理を拾ってからドライブでも……いや、どうせなら泊りがけで、近場の温泉もいいですね)
本来なら明日は平日で仕事だが、婚約の準備のためと称して休むのに、異を唱えられる事はない。
90分間のエステの間は適当に時間を潰せばいいし、家には電話の一本もかけておけば大丈夫。
(とりあえずは、悠理と合流してから行先を決めますか)
僕は口元をやや綻ばせながら、車をUターンさせた。
*
新たな人生の第一歩、の手前で周囲に振り回される未来の妻。
彼女の笑顔を守るのが、僕の一番の役目。
今宵は酒とご一緒に、愚痴でも何でも聞きましょう。
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。