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暇人が開設した二次創作保管庫です。「二次創作」をご存知ない・嫌悪を覚える方は閲覧をご遠慮ください。漫画『有閑』の会長と運動部部長を推してます。
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以前アップした『とある日の喧嘩』清四郎サイドの話。笑えるぐらい動きません(苦笑)

 大事な事が、言えなくて。

 

 『とある日の迷走』

 

目を開けて、何かが足りないと、直感。
ベッドの中には、不自然な空間。
いつの間にか、己の一部分とも錯覚しかねない程に、近くにいた存在。
彼女が、いない。

(………不覚ですな。僕としたことが)

いつもならば、悠理が寝床を離れた時に気付かない事など、ないはずだというのに。
昨夜は、それだけ自分が平静を失っていたという事か。
唇を奇妙に歪め、前髪を掻き揚げた。


   *


昨夜は、常になく言葉を荒げて喧嘩をした。
原因はほんの些細な事であり、今更思い返そうという気力も起きない程のもの。
お互いが多忙な過密スケジュールの中で、余裕を失っていたのかもしれない。
彼女だけではなく、僕も。
やがて彼女は、ぽつりと漏らした。

「………もう、いい」

真っ直ぐに顔を上げ、僕を見てはいたが、その瞳は虚ろ。
なんて表情をするんだ、と僕はその時初めて虚を衝かれ、言葉を失ったが。
悠理は僕から視線を外し、背を向けた。

空間が凍りつく。

しかし僕は、こんな時に歩み寄り、譲歩する術を持たず。
無言のままで携帯と財布を手に、家を出た。

 

 


車を適当に走らせて、あてもなく街中をぐるぐると回る。
信号待ちの度に目に付いてしまうのは、笑いさざめく男女の姿。
自分達にも、間違いなくあんな時間があったのに。

彼女を伴侶として得てから、3年。
仕事に忙殺される僕、そして家のために振り回される悠理。
両方が家にいる時間よりも、同じ会社内にいる時間の方が長い日々が続くというのも滑稽だ。
社内で顔を合わせるような暇など、ないというのに。
(……どうして、こうなってしまったんでしょうね)
当初では考えられなかった、悠理を表に立たせる機会の急増。
勿論それには、不可避の問題があった訳で、彼女自身も異を唱えずに受け入れてくれたけれど。

反面、誰にも言わずに抱えていた苦悩。
見栄や虚飾によって華美に彩られた世界で、窒息寸前であったろうに。
気遣ってやれなかったのは、己の不覚。
されど、それを自分に許さなかったのは、彼女自身の優しさと誤解。
(悠理はあんなに馬鹿なんだから……無用の気遣いなど、当たり前にするんですよね)
今更そんな事に気付かされて焦るような、短く浅い付き合いではなかったはずだ。
なのに、自分は怒ってしまい。
我を張る2人ならではの、売り言葉に買い言葉の応酬。
そして、悠理は閉じこもった。

家に戻ると、悠理はひとり、ソファに崩れ落ちるように眠っていた。
テーブルの上には、不在の間に空けたらしきワインとウィスキーの瓶。
「……面白い。喧嘩をしていても、考える事は同じですか」
ひとり呟く自分の手にした袋の中身は、一升瓶。
瓶を置いて、眠る彼女の頭を昔のようにそうっと撫でる。
年を重ね、化粧もそれなりに板についたけれど、髪の感触は昔のままで、どこかその事実に安堵する。
「明日は……笑顔で『おはよう』と言ってくれますか?」
耳元にそっと囁いてから、寝床へ運ぶため、相変わらずの細い体を抱き上げた。
ワインの香りが残る吐息を、奪いたくなる衝動を抑えて。


   *


結局ひとりで一升空けてから、着替えもせずベッドへ倒れ込むように入り、熟睡。
常ならば、この程度で酔いが回ることもないというのに。
更に悠理が飛び出した事に気付けないとは、有り得ない程の不覚。
「……さて」
とりあえず酒の匂いを抜くために、とシャワーを浴びて服を替えた。
何しろ今日は平日だ、これから出社しなければならない。
(……いや、待て。確か今日は)
頭の中を突如掠めた本日の予定は、必ずしも自分でなければ消化できないようなものではない。
ならば、と決断は即。
携帯電話を操作して、急ぎ上司へ連絡を入れる。
「あ、おはようございます、清四郎です。お義兄さん、朝から申し訳ありません。実は……」

日頃のハードスケジュール消化がものを言い、あっさりと休暇承諾。
「ふむ」
時間を作ったところで、状況調査を開始。
悠理のクローゼットやシューズボックスをざっとチェックして、眉を潜めた。
「……久し振りですねえ、バイクを使うのは。となれば、探しに出るのも難しいですな」
徒歩で探すには無謀だし、車で追うにも手掛りがないならば、どうしようもない。
諦めて、携帯電話で定期的に呼び出しをかけるが、全くと言っていい程相手が出ない。
(シカトですか……いや、バイクだから気付いていないのかもしれない)
携帯を操作して、通話とメールを交互に使用するも、相手は全く梨の礫。
発信履歴と送信済みメールの数だけが、積もっていった。

「……せっかく休みにしてもらったというのに、何をしているんでしょうね、僕は」

自虐的な台詞も、ひとりで言っていては更に空しく響く。
彼女がここにいたならば、きっと笑い飛ばしていただろう。
『ぶわっははは!お前何ひとりでカッコつけて、眉間に盛大に皺寄ってんの!?バッカみてえ』
なんて、豪快に大口を開けて腹を抱え、涙まで零しての大笑いだって平気で行う女だから。
……それでも、自分がこの世界でたったひとり、その腕に包まれて眠りたいと願った女だから。
ああ、そうでした、僕は。

 


不意に、携帯のメール着信を知らせる音が高らかに鳴った。
慌ててチェックすると、送り主は悠理。

『着いたら謝るから、お前も謝れ!』

「……本当に、変わりませんねぇお前は……」
昔からのそのままに、女性らしい媚など欠片も見当たらない、だけど素直な心の言葉。
小さな機械越しにでも届いた悠理の心に、先程までの空しさが霧散して。
「戻ってきたら、久し振りにどこかへ出かけましょうかね?」
独り言に対して微笑むと、古いメールと発信履歴を全削除。
それから新たに、メールを1通。


  *


『昼飯は作りますから、冷めないうちに帰って来い』

 

「ごめんなさい」は照れ臭いから。
まずは「一緒に食べましょう」を。

腹ごしらえしたら、喧嘩でも、デートでも、付き合いますよ?

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» あら?
この2人結婚してたのね~(笑)←遅っ
清四郎ってば、普段の余裕はドコにいっちゃったんんでしょうね。
悠理相手だと余裕のよの字も無くなるのか!
これで、悠理がホントに離れたら清四郎生きた屍!爆
ちゃんと捕まえておかなくちゃ♪
りん 2008/07/21(Mon)23:36:32 編集
» 実はご夫婦でした(爆)
>りん様
あまりにもわかりにくかったのですね(涙)
次回は気をつけます!…って次回あるんだろうか(汗)
が、頑張ります。

コメントありがとうございました!
M@管理人 2008/07/22(Tue)00:36:52 編集
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シスターM
性別:
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自己紹介:
国産ヒト型40代、夫・息子1人がいます。徒然なるまま…ではないですが、勢いに任せ、所謂二次創作をちまっと数年続けてます。
当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。
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