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今回は『優しく誘う3のお題』です。最初は悠理から。無駄に長めかもしれませんが、内容はしょぼいです。
素敵お題をお借りしてなおこの始末…情けなや。
1 風に身を任せて
このまま、飛んでいったら。
*
「うひゃー、すっげー!」
「悠理、危ないですから、あまり窓から身を乗り出さないで下さいよ」
「へーへー、わかってますってば」
思わず頬を膨らませたら、途端に清四郎から軽めの拳骨が降って来た。
「痛ってー!お前グーで殴るなよ!」
「悠理が悪いんです。人の忠告は素直に聞きなさい」
反抗してみても、相手は涼しい顔で、自分が悪いとはひとつも思ってない。
あたいはそれ以上何か言うのを諦めて、さっき殴られた頭に手を触れた。
さすがに、たんこぶまでは出来てないけど、ちょっとまだじんじんと痛む。
(ったく、もう少し手加減しろっての。これ以上頭悪くなったらどーすんだよ)
膨れっ面を戻すのもしゃくだったけど、そろそろ目的地への到着時間。
あたいは仕方なく、さっきまで脱いでいた麦藁帽子を被り直した。
あたいと清四郎を乗せた船が到着したのは、父ちゃんが持ってる島のひとつ。
「一度行ってみるといいだよ。きっとお前たちも気に入るだ」と父ちゃんが言い出して。
その3日後には、2人の休暇と渡航準備が完了していた。
……本人達の了解を無視して、と特筆しておくが。
「あたいはともかく、清四郎は仕事ヤバくないのか?」
いつもながらの強引な事の進め方に、さすがのあたいでも、眉を潜めたけれど。
清四郎は最早動じず、というか諦めモード。
「会長命令ですからね、誰も異を唱えたりはしませんよ。むしろ周囲からは、労わられました」
苦笑いをひとつして、あたいの頭をくしゃ、と撫でて、大丈夫だと言ってくれた。
「……ごめんな」
ぼそりと呟くと、何故か清四郎は眉を潜めて、あたいの頬に軽く平手をぺち、と置く。
え、と思う間もなくぎゅうっと抱き締められて。
「お前は何も悪くないでしょう?不要な謝罪はいりませんよ」
「でも……」
「全く、聞き分けの悪い口ですねえ」
清四郎は呆れたように呟くと、不意打ちであたいの唇を塞ぐ。
「!」
目を閉じる間もなく離された唇は、にやりと意地悪そうな笑みを形作った。
「これ以上余計な事を言うようなら、また塞ぎますよ」
やたらマジな瞳に、あたいが真っ赤になって沈黙したのは、言うまでもない。
*
島の周囲を、徒歩でぐるりと散策。
清四郎は急に職場との打合せらしく、今はあたいひとりで行動中。
心地良い南国の風を受け、着ていたミニワンピがふわりと揺れた。
「気持ちいいー」
更に2、3歩歩いた所で、不意打ちの突風を受けた。
「わっ」
唐突な風の強さに、思わず目を閉じて、やり過ごす。
同時に感じた、頭の軽くなる感覚。
「あ!」
被ってきていた麦藁帽子が、風に飛ばされて一気に青空へと登っていってしまって。
結構気に入ってたやつだったから、追いかけようとしたけど、既に間に合わない。
「……あーあ、行っちゃった……」
思わず虚空に伸ばした手が、行き場をなくして空しく空を掴む。
目を凝らして周囲を見回すけれど、どこまで飛んで行ったのか、影も形もなくて。
「ちぇ……」
軽く舌打ちしたけれど、なおも諦めきれずに、周囲に視線を巡らせる。
そのとき、不意に何かが視界へ飛び込んできた。
「あれ?」
よく目を凝らすと、日本じゃ見たことのない、色鮮やかな鳥。
───さっき飛ばしてしまった麦藁帽子のリボンの色と、似ていた。
「きれー……」
空を見上げて、風を受けて自由自在に空を舞う姿を見て、思いを巡らせる。
まさか帽子が鳥に変身した……何てことは絶対にないのだけど、何となく目が離せなくて。
(あんな風に、飛んでいけたら……楽しいのかな)
自分の頭の上で大人しくしてるより、大空に飛んで行ったほうが、楽しいのかも。
そんな変な事を考えてみて、自分に苦笑い。
「悠理!」
唐突にかけられた声に振り返ると、清四郎が手に何か持って駆け寄ってきた。
「よかった、ここにいたんですね」
「え……あ」
奴が持ってきてくれたのは、さっき飛ばしてしまった帽子。
「ちょうど僕の目の前に帽子が転がってきたので、驚きましたよ。何かあったのかと」
「ゴメン、さっき強い風で飛んじゃったんだ。拾ってくれてありがとな」
あたいは清四郎から帽子を受け取って、ぽんぽんと砂を払うと、被り直した。
すると清四郎が、やたらと優しそうな顔になって頷いてから、頭を撫でる。
「すみませんでしたね、電話が長引いて。もう終わりましたから、大丈夫ですよ」
「そっか?でも、やっぱ父ちゃんが急にこんなところまで来させたのが悪かったんだよな、ごめ……」
「───悠理」
清四郎の声が、不意に冷たく響いたと思ったら。
あたいはあっと言う間に、清四郎の腕の中へ閉じ込められる。
「な、何」
慌てたあたいの顔の間近に、すごく真剣な清四郎の顔があって。
「全く覚えが悪いですね。前にも言ったでしょう?余計な事を言うなら塞ぐ、と」
言ったと同時に、2人の距離はゼロになった。
長くて荒っぽいキスの後、清四郎はあたいを抱き締めたまま、言葉を紡ぐ。
「悠理、僕はお前と一緒にいられて嬉しいんですから、これ以上そんな事を言わないで下さい」
「……え」
ゆるゆると清四郎に視線を向けると、奴は少しだけ顔を赤らめて、それでもはっきり言った。
「確かに仕事は大事ですけどね、お前と過ごせる時間と比べるなんて、野暮ってものです。そんな当たり前の事ですらわからないなんて、言わせませんよ」
「………」
こいつにしてはあまりにも珍しい、あまりにも素直な告白に、あたいまで赤面しまくって。
思わず俯いて、清四郎のシャツをぎゅっと握ってしまう。
きっと今のあたいは耳まで真っ赤になってて、壊れそうな心臓の鼓動が清四郎にも丸わかり。
ちくしょー、無茶苦茶恥ずかしいよ。
そんな風に考えてると、清四郎の腕の力が不意に強くなって。
「本当に、お前は可愛いですね。こんな一言でも、すぐに照れて」
やっぱりあたいの考えなんて、お見通しなんだってわかってしまうのが、口惜しい。
「……うっさい」
「図星でしょ。さ、明日は朝からお前に一日付き合いますから、今日はゆっくり過ごしましょうか」
清四郎は優しくあたいの背中を撫でて、頬に大きな手を添えて。
ゆっくりと、俯く顔を上げさせた。
至近距離で見る清四郎の顔は、今更だけどやっぱり無駄なぐらい綺麗で、どきっとする。
やがてその端整な顔は、ゆったりと穏やかな、最高の笑顔を作った。
「悠理」
「……何……?」
「───愛してますよ」
吐息混じりの囁きと、降りて来る唇を避けることなど、できなくて。
あたいはぎゅっと目を閉じて、柔らかい温もりを、震えながら受け止めた。
*
きっと、あたいが飛んでっても。
さっきの帽子と同じように、清四郎のところへ辿り着くんだ。
だって、こんなに好き。
(お題配布元:空飛ぶ青い何か。様)
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。