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ちょっとわかりにくいですが、悠理と清四郎の一人称がころころ変わっております。ご注意を。
3 木陰の木漏れ日
さわさわ。
さわさわ。
木々が音を立てて鳴る。
静かな音と木漏れ日に誘われて。
目を閉じた。
*
「清四郎、どこ行ったんだろ」
もう昼飯の時間だから、と世話人から言われて、只今大捜索中。
……実際には、あたいひとりだけど。
午後からは海で遊ぶ約束してるのにな、何て思いながら、きょろきょろ辺りを見回して。
「───いた」
真っ黒い頭、発見。
(……寝てる……)
珍しく、無防備そのものの寝顔。
木陰に置かれたビーチベッドで、読書の途中だったのか、本が椅子の下に転がってて。
流石だなって思うのは、寝姿が全然乱れてないこと。
きちんと足も閉じてるし、姿勢正しく横になってて、勿論ヨダレなんてあるはずもない。
アロハ風の、でもやっぱり地味めなシャツとハーフパンツの、案外活動的な姿。
正直ちょっと実年齢とはそぐわないファッションは、いつも首を傾げるけど。
ともかく今は、熟睡中で。
木陰の薄日がちょうど良いのか、目を覚ます気配はなし。
普段きっちりオールバックで整えられた前髪が、珍しく乱れ気味。
静かな寝息を立てて眠る姿は、起こすのに忍びなくて。
「………」
あたいは本を拾い上げて、テーブルの上に置いてから。
隣のビーチベッドにかけてあったバスタオルを、清四郎の腹に。
きっとこれで、寝冷えは防げるに違いないと、勝手に決定。
(……ゆっくり寝てろよ)
声には出さず、代わりにむき出しの額へ、触れるか触れないかぐらいの軽いキスをひとつ。
途端に熱くなった頬は無視して、そっと離れる。
それからくるりと向きを変え、ひとりで先に昼食を済ませようと、コテージに向かって歩き始めた。
*
「………不意打ちでしたね………」
悠理がひとり去って、気配が消えたのを確認してから、そっと瞼を開く。
ビーチベッドから身を起こし、髪を掻き揚げて溜息をひとつ。
よもやあの悠理が、あんな行動に出ようとは。
本当は彼女が近づいてきたとき、気配を察して意識が浮上したのだけれど。
ただ好奇心から、眠ったふりをして、様子を伺っていただけなのに。
あまりに嬉しく可愛らしい行動に、目を開けることができなくなった。
額を抑え、もう一度溜息。
羽のような軽い感触だったけれど、確かに夢ではなくて。
一瞬のぬくもりに託されたのは、自分への労わりと愛情。
「………」
触れられた額が、熱を持って。
初心な少年のように、全身が火照っていくのを抑えられない。
(……いい年をして、情けない限りですな)
度胸はあるが照れ屋な彼女と、完璧主義者と称されながらもこと恋愛には無器用な自分。
精神面であまりに未熟な部分の多い、周囲から言えばそれなりに似合いの2人。
こんなぎこちないスキンシップにさえ、未だに戸惑い赤面する。
でも。
やっぱり、この気持ちは真実だから。
「……行きますか」
ゆっくりとビーチベッドから起き上がり、大きく伸びをして。
読み止しの本を手に、ゆったりと歩き出した。
ともすれば緩みがちな頬を、意識しながら。
*
木漏れ日の中、自覚した想いを。
貴女へ、届けに行こう。
(お題配布元:空飛ぶ青い何か。様)
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。