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以前突発で思いついた『ビターチョコアイス』の逆バージョン的な話です。清四郎一人称。
かなり意味不明なオチですが、それはいつもの事ということで(爆)ご容赦を。
弾けるような笑顔と元気が取り得。
そんな彼女のような。
『トマトソルベ』
広大な敷地を有する剣菱邸の一角には、その主の意向によって、立派な畑が広がっている。
そして悠理の父上・万作氏が、日々畑仕事に精を出している事等、百も承知。
……だが。
「あれ、清四郎、何?」
まさか麦藁帽子に軍手と長靴で、その畑で作業に勤しんでいる悠理を見るとは、思いもよらず。
夏休みの宿題の片付き具合を見に来た僕の頭は、一瞬だけ真っ白くなった。
*
聞けば、万作さんが急な出張に出かける事となったそうで。
「いない間に収穫しておいてくれって頼まれたんだよ、コレ」
「……成程」
話をしながらも手を休めない悠理の足元には、籐製の籠。
中には色艶良いたくさんの、トマトの群れ。
「随分と立派なものですね」
「父ちゃんが丹精してっからなー。生でも食うけど、ソースとかジャムとかも、超美味いんだ!」
僕の褒め言葉を素直に喜び、悠理は満面の笑顔。
そんな彼女を見て、こちらも何故か気分が良くなった。
「んでさ清四郎、お前何しに来た訳?」
不意に悠理が僕の用件を尋ねたため、僕は説明する。
「決まってるでしょ、宿題の片付き具合のチェックですよ。どうせ手付かずでしょうけど」
「ぐっ……」
言葉に詰まったところを見る限り、図星らしいが。
その時、僕には珍しい事だったが、素直な感想が口をついて出た。
「まあ、今日は致し方ないですな。宿題の件は、明日にでも出直しますよ」
「へ?」
「家の手伝いも大事でしょうからね」
首を傾げる悠理に向かって、笑いながら頷く余裕すらあるのが、自分でも不思議。
そして更に珍しい事に、普段なら絶対に言い出さない言葉。
「悠理、良かったらお手伝いしましょうか」
「有り得ねー、お前のキャラじゃねー」と散々喚きつつも、悠理は結局僕の申し出を了承し。
僕の分として用意された悠理と同じ服装で、共に汗を流す事1時間。
無事、本日の作業が終了して。
僕等は剣菱家のメイドが運んでくれたアイスティーにて、一服した。
「清四郎。お疲れ、助かったよ」
「いいえ、こちらこそ滅多にない経験ができて、勉強になりましたよ」
悠理の言葉に頷くと、彼女は心持ち眉を潜め、不思議そうに尋ねてきた。
「お前って何にでも首突っ込むとは思ってたけど、こんなのまで興味あるわけ?」
「まあ、出来心だとでも思って下さいよ。別に迷惑にはならなかったでしょ」
「うーん、ま、助かったもんなあ」
僕の咄嗟の説明にもあまり疑いをかけることもなく、悠理は静かに数度頷いて。
じゅるるる、と。
豪快に音を立てながら、グラスの中のアイスティーをストローで吸い込んだ。
その時、ちょうど計ったようなタイミングで、メイドの声。
「お嬢様、大変お待たせ致しました」
「あ、サンキュー!あたいこそ、シェフに、急かしちゃってごめん、って伝えておいて」
「はい、かしこまりました」
快活そうなメイドは静かに頷くと、悠理と僕の目の前に、何かが入ったシャンパングラスを置き。
一例をして、屋敷へ戻って行った。
涼しげなカッティングを施したグラスの中、赤いシャーベットのようなものが丁寧に盛られて。
グラス表面の水滴が、更に涼しげな印象を与えていた。
「清四郎も食えよ。美味いよ」
「これは何ですか?悠理」
「トマトのソルベ。これも父ちゃんのトマトの成れの果てだけど、美味いぞ」
悠理は僕に説明すると同時にスプーンを手に取って、一口目を口へと運んで、にかっと笑う。
「やっぱ美味い!果物じゃないけど、十分美味いのが不思議だよなあ」
「そんなに美味しいですか?では僕も遠慮なく戴きましょう」
僕は悠理に倣ってスプーンを手に持ち、ソルベを初めて口に入れた。
(……おや)
意外と言えば、意外な味。
野菜にしては驚く程に甘いのに、一般的な果物のソルベと比べれば甘さは控え目。
だけど、溶けていく冷たさと、ちょうど良い甘さと、驚く程広がる風味。
悠理が笑顔で賞賛していた理由がわかり、納得。
「確かに美味しいですね」
「だろ?」
僕の言葉をこういう時には素直に受け取ってくれる悠理は、上機嫌で。
何となく、気分が高揚してくるのを感じた。
麦藁帽子はあくまでも熱射病対策であり、紫外線防止などとは全く気付いていない悠理。
太陽の元で浮かべる笑顔は、さながら収穫を待つ瑞々しいトマトにも似て。
───ああ、そうか。
「悠理」
「ん?」
一心不乱にソルベを平らげていた悠理は、僕の問いかけに顔を上げてくれたので。
僕は笑顔で、思い付きを口にした。
「まるでお前のようですな、これは」
「………はぁ?」
案の定間抜けな声をあげ、思いっきり首を傾げた悠理に向かって。
僕はひとり、得心顔で微笑んだ。
*
家族から、愛情という名の心の栄養を存分に与えられ。
天真爛漫に育った悠理は、意外性の塊。
まさに、トマトソルベの如し。
そして。
何よりその笑顔の愛らしさは、完熟トマトのようで。
……唇を寄せてみたい、と。
僕の好奇心が目を覚ますのは、もうすぐ。
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。