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ある意味『無自覚』につながりそうな気がしないでもない1作です。
一応この文を、今月の最後の更新とさせていただく予定です。ご了承下さいませ。
明日時間があれば拍手の入れ替えぐらいはしたいですが…。
なお拍手レスについては、前回分も終わってないので、後程改めてさせていただきます。
どうぞご理解下さいませ。
部室で悠理が一番言葉を交わす相手は、恐らく魅録。
それは、ロック同好会所属の2人の必然。
僕と野梨子の囲碁同好会、美童と可憐の社交倶楽部もご同様。
今更何を、とこだわる箇所でもない。
……ないのだが。
「なあ悠理、明日久々に走りに行かねぇか?」
今日もバイクの整備をしつつ、気楽に尋ねてくる魅録の態度が、羨ましくないわけじゃない。
そしてこんな彼の誘いに、彼女が満面の笑みで承諾し。
楽しげに当日の打合せをしている背中が、遠く感じられて仕方ない。
これが、日常。
『ほんの少し、変わる日常』
しかし、本日開けたのは、違う道。
「あ、悪い、あたい明日は駄目なんだ」
「へ?何か用事か?」
頬をぽりぽり掻きながら断りを入れる悠理に、魅録が尋ねると、悠理は頷いた。
「後輩のコから誕生日パーティーの招待状貰っちまっててさ。そこん家、父ちゃんの知り合いで」
「欠席不可、って訳か。そりゃ大変だな、ま、頑張って来いよ」
「ん。めんどくせーなぁ」
「悠理、それって1-Bの子のパーティー?僕も行くんだけど」
悠理が頷くと、美童も話に入って来る。
「あーそれそれ!何だよ美童、お前も呼ばれてんだ?」
「そうなんだよねー。たまたま僕、明日はその時間帯って、偶然にも空いててさ」
「あらぁ、いいわねぇ2人とも予定があって。って言っても、私も明日はデートだけどね」
可憐までが加わり、悠理を囲む輪は大きくなる。
そして悠理と美童は、当日持参するものについての話まで始めた。
「えー、めんどくさいよぉ。あ、美童、あたい一応花持ってこーと思ってたんだけど、お前は?」
「僕?そうだねぇ、ピンク系統で適当に纏めてもらおうかな。悠理は何か考えたの?」
「うんにゃ、行くとき花屋寄ろうと思ってたから全然。美童がピンクかあ、んじゃ色変えよ」
「お前らよく花持って歩けるなあ……俺絶対駄目だ、そういうの」
「ねぇねぇ悠理、オレンジ系なんていいんじゃないの?」
魅録や可憐も口を挟み、彼らの話は驚く程に盛り上がっていて。
僕の胸は、ちりちりと痛みを覚えた。
ふと、悠理が話の輪の中から、いきなり僕の方を振り向く。
「そーだ、清四郎!頼まれてもらっていいか?」
「何ですか、急に。きちんと説明してくれないとわからない、といつも言ってるでしょう」
悠理に突然話しかけられるというのは、何故か動悸が高まるので、正直心臓に悪い。
僕は自分の心臓を宥めつつ、返答した。
悠理はぴょん、と輪を抜け出し、僕の座っている場所の隣へやって来る。
「あのさあのさ、明日の午後って暇ある?」
「午後ですか?そうですね、2時以降なら大丈夫ですよ。何か用でしたか?」
頭の中でスケジュールを諳んじてから回答すると、悠理の目が輝いた(気がした)。
「兄ちゃんにプレゼント買いたいんだけど、何買えばいいのか思いつかなくてさ。付き合って」
「豊作さんの?それは構いませんが、何でまたプレゼントなんですか?」
「誕生日近いんだよ。でも、兄ちゃん来週の頭っから出張で当日いないから、先に渡したくてさ。お前なら、兄ちゃんぐらいの年の人とも付き合い多そうだからさ、何かいいもん思いつくかと思って」
まっすぐ僕を見つめ、理由を説明する悠理の姿は、まさに兄思いの妹そのもの。
僕は自分の予定を頭の中で即座に組み替えると、悠理へにっこり笑いかけた。
「いいですよ。では、その誕生日パーティーとやらが終わってから、連絡を下さい」
「マジ?良かったー。あんがと清四郎ちゃん、愛してるー」
「はいはい」
自分の中の問題が解決できて嬉しいのか、悠理は満面の笑みを浮かべ、お決まりの台詞。
僕は軽くそれを聞き流し、それでも口元が緩みそうになるのが不思議だった。
*
時刻は午後の2時15分、本日の天気は快晴。
僕は読みかけの本をぱらぱらと捲りつつ、時折携帯の画面をちらりと見やっていた。
(……なかなかに、時間がかかっているのでしょうかね)
昨日悠理が出席を渋っていた下級生の誕生日パーティーは、そろそろお開きの時間。
彼女から連絡が来てもおかしくないのに、何かあったのだろうか、と僕は本を閉じて考えた。
その時不意に、計ったようなタイミングで携帯が鳴り始める。
「もしもし」
『あ、もしもし清四郎?あたい!ごめん、こっち今終わったんだ』
小さな機械を介してではあるが、快活な悠理の声が届いて安堵する。
「謝る必要はないですよ、お前のせいじゃないんだから。今どこにいるんですか?」
『あのねー、まだ後輩のコの家。これから車拾ってそっち行こっかな、って』
僕は自宅から、悠理の今いる場所までの交通手段をシュミレート。
そして、結論。
「いいえ悠理、確かそこから5分ぐらいの駅前通りにカフェがあるでしょ?そこで待ってて下さい」
『え、何、お前が来んの?』
「きっと今時分の道路状況なら、お前がこっちへ来るより早いですよ。では、また後で」
『悪いな、じゃ、頼む。後でな!』
通話が切れたと同時に、とうに外出準備が完了していた僕は、階下へ降りて母親に告げる。
「ちょっと出掛けて来ますね。夕飯はいりませんので」
「あら、そうなの。誰かと一緒?」
「悠理とですよ」
「まあ、悠理ちゃんと。そう」
悠理の名を出す度に、母親は何故か、とても嬉しそうににっこりと笑う。
その理由はわからないが、今は先を急ぐ方がいいと僕は判断した。
「では、行ってきます」
「気をつけてね。ごゆっくり」
母親の笑顔と言葉に、何か引っ掛かるものを感じたが、まずは悠理と合流するのが先。
僕は電車を利用するため、駅へと急いだ。
(……さて。豊作さんがよく使いそうなものといえば……?)
悠理からの電話を待つ間、ちらちら眺めていたショッピングサイトでチェックした品々。
ビジネスマンでもある豊作さんなら、カードケースなどは妥当かもしれない、と頭を過ぎる。
何せ買うのは悠理なのだから、金銭面では心配ないが、彼女の独特な趣味が問題で。
自分が上手に誘導すべきか、などとすら思いを巡らせた。
(……まあ、まずは悠理と合流するのが先ですよ)
僕は気を取り直し、今頃多分カフェで大量に食べ物を注文し、周囲を圧倒している友人を思い浮かべ。
微かに緩む頬を意識しつつ、車窓からの景色を眺めた。
*
手のかかる友と、連れ立っての外出。
それは、ほんの少しだけ違う日常。
そして、ほんの少しだけ何かが変わる、前兆。
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当ブログへ掲載している作品は、小学生当時連載開始から読んでいた思い出の作品。数年前にちょっとだけ二次創作を綴っていましたが、いきなりブームが再燃しました。
更新ペースは超・いい加減でございますので、皆様どうぞご容赦を。